研究課題
1) エチオピアのチョローラ地区の調査関連では、年代層序の残る疑問を解決するためにH26年度調査で追加採取した火山岩サンプル多数と古地磁気資料の分析を特急で進め、並行してH26年度取得の動物化石を評価し、チョローラ層の層序年代と動物相に関する一定の結論を導いた。この成果は、既存の層序年代学的枠組みを大幅に改定する重要なものとなり、H27年度後半に注目度の高い国際誌に論文発表した。また、H27年度後半期の野外調査はBetichaの類人猿化石サイトの発掘に集中し、化石包含層約30平米を発掘した。結果、類人猿とオナガザル類の重要な化石若干数を追加すると共に、H24年度以来の発掘区域を連続した20メートル(約90平米)の領域まで拡張した。チョローラピテクス化石の形態比較研究を進めると共に、ほぼ同時代のイラン産の類人猿化石の研究を進めた。2) コンソ地区関連の研究では、アシュール型石器群に関するコンソ調査報告書をエチオピアの共同研究者と最終化し、年度中に出版した。また、世界最古級の骨ハンドアックスなどについて比較分析を進めた。動物化石関連では、動物相全体の年代変化と古環境との関わりについて解析し、論文化した。並行して分類群ごとのまとめを継続した。3) ラミダス化石関連の形態進化研究では、前年度から継続して個別研究を試行錯誤した。種子骨の研究、距骨の関節面方位に関する研究、遊離歯を対象とした咬耗ファセットと咀嚼運動に関する研究、類人猿犬歯の歯髄腔を用いた年齢推定、エナメル象牙境による臼歯形態の3次元数量比較、数量モデルによるラミダス犬歯の性差推定などを進めた。4) 各研究に必要な3次元スキャンデータを随時作成した。マイクロCT装置をエチオピア古生物古人類研究施設に継続臨時設置することができ、チョローラピテクス化石などの3次元情報化を発掘調査後に進めた。
2: おおむね順調に進展している
チョローラ地区は、人類とアフリカ類人猿が分岐した前後と思われる700万から1000万年前ごろの年代を持つ、アフリカでも稀少な調査地の一つである。特に900万から700万年前の間の時代は、人類進化史上の最後の大きな化石空白期となっているため、本研究によるチョローラ調査の意義は大きい。本研究では、代表者らが2007年に発表したチョローラの類人猿化石とその年代について、新規の地質・年代情報を得、また類人猿化石の発見数を着実に増してきた。チョローラ層の層序年代の更新においては、露頭情報と分析結果との間に複雑な相違点が生じ、その解決が必要であった。H26年度末の現地調査とH27年度の資料分析でこの問題に集中的に取り組み、結果、H27年度中に論文発表することができた。即ち、750万から900万年前の間のサハラ以南の化石群集の存在と特徴について、世界で初めて発表することができた。しかも、大型類人猿とオナガザル類の化石数は、毎年予想以上に増している。コンソ地区関連では、世界最古級のハンドアックス資料等の重要な旧石器資料と動物化石群について、引用度の高い論文と大部の報告書2編の発表を達成している。ラミダス研究関係では、H26年とH27年出版のPNAS論文により、一部の欧米研究者によるラミダス懐疑論(人類ではないとの)を大方払拭することができた。目下は、ラミダスの個別特徴の幾つかについて掘り下げる研究を継続中である。手の特殊化、足第一指の機能進化、咀嚼機能の新しい評価法、性差の数理モデル解析などで良い成果を得ており、順次発表予定である。また、CT装置など複数の入力装置を組み合わせた3次元情報化体制は軌道にのっており、各研究の効率的な推進が可能となっている。
チョローラ層の類人猿化石は予想以上に毎年継続して出土し、現在では2地点から総数60点以上の歯の化石が得られている。第4小臼歯から第3大臼歯までは個体変異について一定の評価が可能な数が得られている。一方、切歯、犬歯と第3小臼歯はわずかしか発見されておらず、それらの全体像についてはまだ分からない。今までに発見された類人猿化石の全てを同一種の大型類人猿とみなして良いのか、あるいは第2の系統が存在したのか。2007年に研究代表者らが提示したゴリラ系統仮説の検証と、その上で1000万年前ごろから800万年前ごろまでのユーラシア大陸の化石類人猿との系統関係をどう判断するか、今後、慎重に形態比較研究を進める必要がある。類人猿化石の大多数を産出したBetichaの発掘サイトでは、H27年度の調査で化石包含層を約30平米発掘した。これにて、H24年度以来の発掘区域を連続した20メートル(約90平米)の領域に拡張することができ、包含層はまだ続くものの、比較的簡単に発掘可能な斜面の発掘は一段落した状況にある。霊長類化石は依然と高頻度で発見されており、類人猿とオナガザル類化石共に重要な標本が毎年相当数追加されている。一方、H27年度中に予想外の展開があった。それは類人猿化石を産出した2地点目のChifaraの化石サイトに関することである。Chifaraサイトからは、H25年までの調査で類人猿化石(上顎小臼歯と大臼歯)が2点だけ得られていたが、それ以上の発見はあまり期待していなかった。ところがこの度、さらに3点の類人猿化石(歯と指)の小片を砂礫サンプルから特定することができた。そこで、本年度は本研究課題の最終年であるが、例年よりは早い日程で現地調査を実施し、Chifaraサイトの調査を拡張することを最優先課題とする予定である。Betichaの類人猿とオナガザル類化石は、世界的にみても第一級の重要度を持つものである。オナガザル類化石については、既に第一報を論文出版したが、その後さらに新たに化石が発見されており、これらについてはなるべく早期に論文発表する予定である。類人猿化石については、比較解析は早急に進めるものの、発見が継続している最中は、論文発表のタイミングについて慎重に検討する必要がある。コンソ地区関連の調査研究では、本年度は世界最古級の骨ハンドアックスの研究を完成し、論文発表する予定である。また、動物化石と古環境研究を継続する。ラミダス関連の研究では、前年度に続き、ラミダスの個別特徴について掘り下げる研究を継続し、その一部について論文化を進める予定である。現生類人猿の手の特殊化仮説、足第一指機能のアウストラロピテクスとの対比、距骨の関節面形状の数理解析、咀嚼機能の新しい評価法の確立、性差の数理モデル解析など、前年度までの成果に基づき最終年度中に可能な限り進める。
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