研究課題/領域番号 |
24221003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠山 千春 筑波大学, 医学医療系, 客員教授 (10150872)
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研究分担者 |
渡辺 知保 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70220902)
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研究期間 (年度) |
2012-05-31 – 2017-03-31
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キーワード | 発達神経毒性 / 微細形態 / 樹状突起 / 軸索 / 細胞移動 / アリール炭化水素受容体 |
研究実績の概要 |
微量の化学物質への周産期曝露に伴う発達神経毒性の解明は、放射線・化学物質影響科学における重要課題である。本研究では、ダイオキシン(TCDD)、ビスフェノールA(BPA)への曝露により個体で観察される発達神経毒性を、神経細胞の微細形態学的変化の観点から解明することを目的としている。本年度の研究実績概要を項目ごとに示す。 1.受容体ノックイン(KI)実験:Cre/Loxシステムを応用した子宮内電気穿孔(IUE)法を用いて神経細胞を「まばら」に可視化する方法を確立し、恒常活性型ダイオキシン受容体(CA-AhR)を海馬、大脳皮質の神経細胞に発現させ微細形態に及ぼす影響を調べた。いずれの脳領域においても樹状突起の形態変化ならびに細胞移動の遅滞が観察された。複数の脳領域においてAhR下流シグナルの活性化が微細形態に影響を与えることが明らかとなった。同時に、微細形態変化の解析においてIUR法が極めて有用であることが判明した。 2.神経ネットワーク解析:IUE法により大脳皮質の神経細胞に蛍光タンパク質を発現させることで、反対側の大脳皮質へ投射する軸索線維を可視化する実験系を構築した。CA-AhRが軸索投射に及ぼす影響を調べたところ、投射の様子に顕著な変化は観察されず、CA-AhRは樹状突起選択的に影響を及ぼすことが分かった。 3.新規試験を用いた微細形態変化が疑われる脳領域の探索: 周産期TCDD曝露した母動物から生まれた仔が成熟した後に、新規行動試験(対連合学習課題)を実施したところ、学習体系依存性の記憶・学習機能が有意に障害をうけることが明らかとなった。また独自に開発したLMD-qPCR法により、社会環境隔離マウスによる脳領域ごとの遺伝子の発現量変化を明らかにした。これらの行動試験結果は、微細形態変化が疑われる脳領域を絞り込む上で重要な知見となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、既に設置済みの設備を用いることで円滑に研究を進めることができた。CA-AhRを用いた実験より、AhRシグナルの活性化が微細形態および細胞移動の変化を引き起こすことが明らかとなった。これらの変化は複数の脳領域・細胞で観察されたことから、AhRシグナルの活性化と微細形態変化との密接な関連を示唆する知見を得ることができた。現在、これらの結果について論文の投稿・執筆を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
LMD-qPCR法を用いて、CA-AhRにより微細形態変化が起こっている神経細胞の遺伝子発現を調べ、形態変化を引き起こすメカニズムの解明を目指す。共焦点顕微鏡を用いてスパインやフィロポディアなど樹状突起の微細構造変化を重点的に調べる。微細形態変化を引き起こすメカニズムを明らかにするため、化学物質曝露やCA-AhRがミトコンドリアやゴルジ体、アクチン細胞骨格などの細胞内部構造に与える影響も調べる。また、これまでに蓄積した微細形態解析のノウハウを活かし、グリア細胞の形態解析にも着手する。さらにTCDD、BPA以外の化学物質の曝露による微細形態影響も調べる。現在、周産期曝露により高次脳機能影響が報告されているヒ素による微細形態変化の検討を進めている。
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