研究課題/領域番号 |
24249067
|
研究機関 | 独立行政法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
岡安 隆一 独立行政法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, 主任研究員 (50356135)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | Hsp90 阻害剤 / 重粒子線 / 併用療法 / DNA損傷応答 / 細胞老化 / DNA-PK阻害剤 / 放射線増感 |
研究実績の概要 |
第一目的の相同組換修復阻害と重粒子線照射の組み合わせによる癌細胞成長抑制の研究では、ヒートショック蛋白(HSP)90の阻害剤と炭素線照射の併用療法の有効性に関する論文がオープンアクセスの雑誌に発表され(Hirakawa et al Cancer Med. 4: 426-436 (2015)) 、すでに多くの人々が参照している。この放射線増感作用は、細胞レベルでも動物レベルでも有効であり、将来の重粒子線との併用療法に一提案を与えるもので、この論文に用いた阻害剤の他にも薬品のスクリーニングが続いており、さらにより良い併用剤を目指している。この他の関連研究としては、重粒子線照射後のDNA損傷応答の研究にも貢献し、G2/M細胞周期のチェックポイントとATR蛋白の活性の関係が論文として発表されており (DNA Repair 23:72-83 (2015))、重粒子線を用いてヒト細胞に障害を与えた際の、細胞分子レベルでの機構解明にも貢献した。 第2目的の細胞老化を効率的に促進させる因子を見つけることで癌を抑制する研究では、重粒子線とDNA修復阻害剤を併用することによる細胞老化への影響を引き続き検討した。ヒト肺がん細胞A549(p53野生型)とH1299(p53欠損)を用い、X線と炭素線(50 keV/um)照射、阻害剤としてはDNA-PK阻害剤(NU7441)が使用された。細胞毒性評価(コロニー形成試験や細胞増殖試験)ではX線に加え、炭素線でも増感効果が得られ、放射線抵抗性を示すp53欠損株であるH1299の方がA549と比べ、より高い増感効果が観測された。また細胞老化マーカーであるSA-βGalのレベルを調べたところ、興味深いことにp53欠損株において放射線増感剤併用群で大きく細胞老化が促進されることがわかった。今後はこれらのより詳細な分子メカニズムを解明する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は上記の第一目的である重粒子線照射とHsp90阻害剤17AAGの併用研究の論文が発表され(Hirakawa et al Cancer Med)、またその他のHsp90阻害剤の研究もさらに進んでいること、またこの関連分野での複数の論文発表も継続していることにより、進歩は順調であると考えられる。
第二の目的では、X線照射、重粒子線照射による2つの肺がん細胞を用いた癌細胞老化の研究が進み、放射線照射に加えて、DNA修復阻害剤との併用でも, 細胞老化マーカーの発現が高くなる等の研究が進み、細胞老化関連の蛋白発現の研究も進んでいる。これらの結果は平成27年5月に行われる国際会議で発表されることになっている。これらをまとめての論文発表が27年度に予定されていることにより、これまでの達成度は順調であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
第1の目的である重粒子線照射とHsp90阻害剤の併用研究では、PU-H71, CAY10607との併用での研究を進め、DNA修復の度合、細胞周期上での振る舞い、アポトーシス、その他の指標の実験・解析を進め、少なくともこの2種類の阻害剤で、論文を提出したいと考えている。これには可能であれば、細胞レベルでの研究に加え、動物レベルでの結果も含めることを予定している。さらにHsp90以外の薬品にも注目し、Hsp90のような正常細胞への作用は比較的に少ないが、癌細胞には有効な化合物を発見したいと考えている。
第2の目的では、がん抑制蛋白であるp53のステータスの異なる癌細胞を用いての実験をつづけ、細胞老化の観察とともに、特に重粒子線とDNA修復阻害剤 (DNA-PK阻害剤等)の併用が細胞老化に寄与する現象を掘り下げ、ユニークな癌細胞増殖抑制法を提案したいと考えている。さらにその細胞・分子レベルでのメカニズムを解明し、この興味深い現象とともに、論文発表に結び付けたいと考えている。さらに我々のシステムは細胞老化の分子メカニズムにも貢献できる可能性があり、重粒子線照射がDNA修復機構の解明に寄与してきたように、放医研の重粒子線を用いた研究が、細胞老化現象機構の解明への一端を担う可能性が予測される。
|