研究課題/領域番号 |
24300194
|
研究機関 | 埼玉県立大学 |
研究代表者 |
高柳 清美 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 教授 (20274061)
|
研究分担者 |
金村 尚彦 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (20379895)
国分 貴徳 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 助教 (10616395)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 前十字靭帯 / 自己治癒 / 関節制動 / FGF-2 / TGF-β / VEGF / αSMA / NF-kB |
研究概要 |
我々はこれまで,膝前十字靭帯(以下ACL)完全損傷においても,損傷後に生じる異常運動を制動することで自己治癒しうることを,実験動物モデルを用いて明らかにしてきた.しかし,“損傷後に異常運動を制動すること”が関節内の内部環境にどのような変化を生じさせ,これまで治癒しないとされてきたACLが自己治癒に至るのかについては未だ不明なままである. 平成25年度の第一の研究は,本モデルにおける関節内の分子生物学的機序についてmRNAレベル・タンパクレベルでの解析を行うことであった.結果として,損傷後2週以後,治癒関連因子FGF-2およびTGF-βの発現量の増加はみられなかった.損傷後2週時点において血管内皮細胞増殖因子VEGFおよび損傷組織のリモデリングに関与するαSMAの発現量増加を認めた.以上の結果から,我々のACL保存治癒モデルでは,関節内において分子生物学的な変化が,損傷後早期の時点において生じている可能性が示唆された. 第二の研究は,核内因子kB(以下,NF-kB)がACL再生を促進する潜在的なターゲットである可能性が考えられることより,ラットACL損傷モデル急性期におけるNF-kBの動態を腫瘍壊死因子と比較してその差異を明らかにすることとした.関節制動群はACL切断後,脛骨の前方引き出しを防ぐ手術を行ない,非制動群はACLを切断後,関節包を縫合した.sham群は骨孔を作成し関節包を縫合した.各群から採取したACLにおける2因子のmRNA発現量をreal time PCR法にて検討した.その結果,関節制動を行なうことでNF-kBのmRNA発現量は時間経過とともに有意に増加し,TNF-αのmRNA発現量は時間経過とともに有意に減少した.ACL損傷急性期の関節制動により,NF-kBはTNF-αの働きを抑制し,間接的にACL再生に関与していることが示唆された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ACL切断における治癒過程を組織学・免疫組織化学的方法にて解析する研究はほぼ計画通り進行した. しかし,これまでに報告された文献をもとに設計した「力学的外力によるACL切断装置」では記載された論文内容の成果が出せず靭帯断裂が不完全であった。現在,回旋ではなく前方引出による新たな切断機器を設計し製造中である.結果として平成25年度に予定していた,”ACL治癒過程における関節液内のサイトカインや酵素の発現を分子生物学的方法により同定する研究”が平成26年度にずれ込んだ. 平成26年度に計画していた研究はこれまでの関節包を切開して行う関節包外制動モデルで行うので変更はない.
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度は主に前半で運動と治癒靱帯の関係,後半で新鮮ACL損傷者より採取した関節液におけるサイトカインと酵素の発現を分子生物学的に分析する. 1. 炎症期・増殖期の運動制限および積極的運動が治癒ACLの強度に及ぼす影響 これまでの研究で,関節制動と自由飼育による治癒靱帯の強度は正常靱帯の約1/2という結果であった.本研究ではACL切断後の炎症期および増殖期の運動がACL修復に及ぼす影響を,生体力学的方法により検討する.力学的評価方法はこれまで行ってきた方法を用いる.ラットのACLを切断後に関節包外関節制動を行い,炎症期および増殖期間(術後3週まで)に,関節固定を行う群,尾部懸垂により運動制限を行う群,大学既存のラット用トレットミルおよび外乱刺激機器により運動負荷を加える群の3群を設ける.積極的に運動負荷を加える群における運動開始時期,期間,運動強度および運動時間は平成25年度に行った予備実験をもとに行う.術後8週後,および12週後にト殺し,治癒ACLの強度および粘弾性などの力学的特性を評価する. 2. ヒトを対象としたACL保存療法におけるサイトカインと酵素発現の動態 ヒトを対象にACL治癒過程における関節液内のサイトカインと酵素の発現について検討する.研究協力者の井原秀俊氏は関節制動装具と運動療法によりACL新鮮損傷に対する保存療法を実践し,実績をあげている.ACLの保存療法を行う被検者(5名程度を予定)に研究参加の同意を得たのち,関節液の採取を行う.採取時期は受傷1週後,4週後,8週後とする. 3. 「力学的外力によるACL切断装置」を完成させ,ラットの関節液内のサイトカインと酵素の発現について検討し,2.の研究で得られたヒトの分析結果と比較し,ACL治癒過程におけるタンパク発現の類似点と相違点を明らかにする.
|
次年度の研究費の使用計画 |
「力学的外力によるACL切断装置」が先行研究で示されたように再現できないため,脛骨前方引出による切断方法の機器に切り替えた結果,ひとつの研究の進行に遅れが生じた。 平成25年度にできなかった,”ACL治癒過程における関節液内のサイトカインや酵素の発現を分子生物学的方法により同定する研究”のために必要な実験材料費等(一次抗体、試薬、リアルタイム用試薬、プライマー)を購入予定である.
|