研究課題/領域番号 |
24310163
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 好幸 東北大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (70333797)
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研究分担者 |
児嶋 長次郎 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (50333563)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体分子計測 / NMR / 安定同位体標識 / バイオプローブ / 細胞内化学反応 |
研究実績の概要 |
本研究課題では細胞内におけるRNA分子の構造解析、及び、動態解析(代謝過程の経時観測等)を目指している。このような解析を行うためには、観測対象のRNA分子と対象ではない内在性RNA分子を識別し、着目している機能性部位の構造特性を素早く抽出するための手法が必要である。そこで平成24年度は、RNA分子の特定残基のみを標識する手法を開発した。具体的には、RNA polymeraseのプライマー伸長反応(及び標識NTP)を鍵反応とする「RNA分子内の一残基部分標識法」を確立した。本手法は、当研究室で開発した旧法の問題点(グアノシン一残基標識法)を克服した任意の塩基を標識可能な新規標識法である。次に平成25年度はin vitro切断実験にて、Ire1p RNaseドメインが切断可能なRNA配列を検証した(Ire1pは細胞質スプライシング切断反応を担う小胞体膜蛋白質)。その結果、Ire1p RNaseドメインの基質となるための配列要求性および基質RNA分子の構造特性が明らかとなった。 本結果をうけて平成26年度は、基質RNA分子の構造解析を行った。具体的には、切断部位ループ配列(5' CXGXXGX 3')のヘアピンループRNA分子の構造解析を行った。本RNA分子において、ループ5'端および3'端近くのシトシン/グアニン残基を独立に15N標識したRNA分子を調製した。当該標識RNA分子について溶液NMR測定を行った。その結果、各標識残基由来のシグナルを選択的に観測することに成功した。なお15N-filtered 1D 1H NMRスペクトルから、グアノシンのイミノプロトンとシトシンのアミノ基のシグナルは塩基対形成時の化学シフト値を示した。このことから、ループ内でグアニンおよびシトシンは塩基対形成していることが判明した。このデータは、前年度のin vitro切断実験のデータを構造学的に裏打ちするデータである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では平成26年度に「基質RNA分子のNMR分光法による構造解析」を目指してきた。上述のように平成25年度の実験で、NMR分光法で構造解析を行うための配列の必要条件が明らかとなったので、その要求性を満たすRNA配列を化学合成しNMR 測定を行った。その結果、RNAオリゴマー5' CGUAAUC-CAGCCGU-GAUUACG 3'がNMR観測に適した配列であることがわかった。そこで研究代表者が開発したRNA分子の一残基標識法を利用して、基質RNA分子の一残基標識体を作製した。この際、ループ内の構造を詳細に調べる目的で、ループ内保存配列であるループ1残基目のシトシンおよび6残基目のグアニン塩基を独立に安定同位体標識することが出来た。さらに重要なこととして、NMR分光法により当該一残基標識RNA分子から標識残基由来のシグナルを選択的に抽出することに成功した。これらの結果から、研究代表者が開発した一残基標識法は、実際のRNA分子の構造解析に利用可能な方法論であることが証明された。 次に得られたスペクトルを解析したところ、シトシンのアミノプロトンおよびグアニンのイミノプロトンの化学シフト値はいずれも塩基対形成(水素結合形成)したときの値を示していた。このことは、ループ配列が特異的な三次元構造を形成していること、及び、その三次元構造をIre1p RNaseドメインが認識していることを示唆するものである。またここまでのNMR測定により得られたスペクトルデータ(化学シフト値等)は、細胞内に本基質RNA分子を導入してin cell NMRを測定する際の比較対象データとなる(細胞内でのスペクトルと一致するなら、細胞外で基質RNA分子がとっている三次元構造と細胞内の構造が同じと結論できる)。 このように、研究代表者の手法開発と基質RNA分子の配列要求性の検討は確実に実を結びつつあり、当初の目的である細胞内構造解析へと着実に歩を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」のところで述べた通り、平成24年度の研究で確立したRNA分子の部位特異的(一塩基)安定同位体標識法により、細胞質スプライシングの標的RNA配列を標識することが可能となった。また、平成25年度の実験で、標的RNA配列の要求性、即ち、解析に用いるRNA配列の詳細が確定した。具体的な標識分子としては、HAC1 mRNAの切断部位のヘアピンループ配列となる。なお上述の一塩基標識法により、本ヘアピンループのループ中保存配列(5' CXG/XXGX 3': /が切断部位)を一塩基ずつ標識することをが可能となっている。特にループ1残基目および6残基目のC、G残基についてはループ内塩基対形成をプローブするために最適である。実際、平成26年度の実験で上記シトシンとグアニンを独立に一残基安定同位体標識した基質RNA分子を調製することができ、個々の残基から選択的にシグナルを取り出すことに成功している。これにより、細胞外(in vitro)での基質RNA分子の精緻なNMR分光データが得られ、細胞内の構造解析を行う際の参照データが出来た。 従って平成27年度は、最後のステップである基質RNA分子の細胞内導入法の検討に入る。なお、生体高分子の細胞内導入法は毎年新たな手法が登場する状況にあり、当初の研究計画で提案していた手法(RNA分子に細胞膜透過性ペプチドをS-S結合で化学的に連結する手法、RNA分子を能動輸送される蛋白質に化学的に連結する手法)に加えて、リポソームと細胞の電気融合による核酸の細胞内導入法(PLOS ONE, 2014, 9, e106853)等も検討したい。本手法は野村慎一郎准教授(東北大院工)によって開発された手法であり、野村准教授の協力も得ながら、効率的なRNA分子の細胞内導入法の検討を行い、解析対象である基質RNA分子の細胞内構造解析を達成したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年(平成26年)11月にDNA/RNA合成機が故障し、それ以降に合成予定であったRNAを用いた実験がストップした。研究費の残額で合成機が購入出来る事がわかったので至急発注したが、納期が2015年(平成27年)2月となり、2014年度(平成26年度)後半に行うべき実験が2014年度(平成26年度)末までに終了できないこととなった。それに伴い、RNAの合成原料の試薬代、安定同位体標識試薬の試薬代、細胞培養関連費、および、NMR測定関連試薬・消耗品等が未使用額として発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
「未使用額が発生した状況」に記載した理由により、RNA合成および当該RNAを用いたin cell NMR測定の実験が2014年(平成26年)11月以降ストップした。従ってストップした実験を2015年度(平成27年度)に行うこととし、未使用額はその経費(RNAの合成原料の試薬代、安定同位体標識試薬の試薬代、細胞培養関連費、および、NMR測定関連試薬・消耗品等)に充てる予定である。なお残額も416,921円であり、上述の計画していた実験を行うに必要かつ十分な額である。
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