研究課題/領域番号 |
24320030
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
岩佐 光晴 成城大学, 文芸学部, 教授 (10151713)
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研究分担者 |
浅見 龍介 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部調査研究課東洋室, 室長 (30270416)
丸山 士郎 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部博物館教育課教育講座室, 室長 (20249915)
和田 浩 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部保存修復課環境保存室, 室長 (60332136)
小澤 正人 成城大学, 文芸学部, 教授 (00257205)
能城 修一 独立行政法人森林総合研究所, 木材特性研究領域, チーム長 (30343792)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 木彫像 / 神像 / 樹種分析 / 近赤外分光分析 / カヤ / ヒノキ / クスノキ |
研究概要 |
5月23日に東京国立博物館で前年度の総括と本年度の調査に向けての会合を開いた。それに基いて本年度、国内で実施した調査は以下の通りである。 ①5月23日 東京国立博物館開催の「大神社展」の出品作品、②6月21日~23日 静岡・南禅寺木彫像11躯、③7月22日・23日 東京国立博物館収蔵品 ④9月4日~6日 静岡・南禅寺木彫像5躯、破損仏木片24個、部材木片25個、⑤10月25日~26日 長野・正覚院木彫像1躯、破損仏木片19個 調査は参加可能なメンバーによって実施し、いずれについても近赤外分光分析や香りの分析、樹種分析(①は除く)を行った。②については8躯が神像系の彫像であるが、いずれもクスノキで、残りの3躯は仏像であるが、カヤと判明した。③は大谷探検隊関係の木製品を中心に行い、あわせて行った鎌倉時代の如意輪観音坐像についてはカヤと判明した。④については木彫像3躯がカヤ、2躯がヒノキ、破損仏木片の大半がカヤないしクスノキ、部材木片の大半がヒノキないしスギと判明した。⑤については平安時代中期の木彫像がカツラ、破損仏木片の大半がカツラないしヒノキ、一部トチノキと判明した。いずれも木彫像における樹種選択のあり方を考える上で貴重なデータを確保できたといえる。その他、6月16日には、静岡県函南町所在の「かんなみ仏の里美術館」で木彫像の見学を行った。 海外調査は3月24日~3月31日に中国の山西省、河北省を中心に実施した。各地所在の博物館、寺院等を訪れ、現存する木彫像や関連遺物に関するデータ収集を行った。山西芸術博物館、山西省博物館には宋代以降のものではあるが、木彫像が収蔵されていることを確認した。また、河北省正定県の隆興寺慈氏閣では7.4メートルに及ぶ宋時代の一木彫像を見学した。なお、山西省には唐代に遡る木造建築が現存しており、木彫像との関連でも重要な地域であることを認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
静岡県河津町の南禅寺については、木彫像23躯、破損仏木片24個、部材木片25個すべての写真撮影と木片採取を完了し、可能な限り樹種同定を行った。樹種同定の結果、仏像の大半がカヤ、神像がすべてクスノキと判明し、仏像と神像では用材選択の認識が異なったことを示す事例として注目される。大半の仏像の用材がカヤであることは、白檀の代用材としての栢をカヤに当てる正統な認識に基づいているといえる。また、仏像の作風は奈良の仏像との関連が想起され、造像の背景として中央(奈良)の僧の関わりを強く感じさせる。南禅寺の仏像に関しては、これまで伊豆地方になぜこのような木彫像が伝わっているのか、その歴史的な背景がほとんどわからなかったが、用材観という観点から、その糸口がつかめてきたといえる。 また、長野県長野市の正覚院には破損仏の木片が多数残っているが、これまでほとんど注目されていないといえる。しかし、その一部の木片の造形を見ると残片ながら、平安時代前期の真言密教系の木彫像に通じる正統的な作風を示し、同系統の像には乾漆を併用している例が多いが、本木片の表面にも乾漆を使用した形跡を残すことが注目された。本木片の樹種はヒノキと判明したが、同系統の典型作である京都・東寺講堂の諸像の用材がヒノキと判明していることからも注目される。 中国の木彫像については、唐代以前の木彫像がほとんど現存していないことから、研究が十分になされていない状況であるが、山西省や河北省の寺院に比較的多く現存する宋代や遼代の塑像作品を見ると、唐の仏像と関連する要素が多く、唐代の作例よりは現存例のある宋代の木彫像から唐代の木彫像のあり方を復元的に考察する方法もあると考えられる。 調査データは着実に蓄積しているが、本年度さらに実施しようと考えていた平安時代前期に遡る木彫像がまとまって伝存している南禅寺以外の寺院での調査は進んでいないといえる。
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今後の研究の推進方策 |
静岡・南禅寺の木彫像については、破損仏木片や部材木片も含めて、すべての写真撮影と樹種同定を終えており、今後は1点1点について形状や構造に関する詳細な調書作成をおこなっていく。その成果は研究報告書としてまとめ、研究者のみならず地元をはじめ一般へも還元したいと考えている。その調査方式を、古い木彫像がまとまって伝存する他の寺院へと広げて行く予定である。 また神像彫刻の樹種に関するデータも蓄積されており、東日本と西日本での用材選択のあり方の相違など、ある程度の見通しも立っており、それらをできるだけ早くまとめて公表する予定である。 中国の木彫像については、中国国内でもあまり関心が払われておらず、木彫像に視点を定めて調査をすることによって、これまで見落とされてきた作例をあらためて見出すことのできる可能性もあると考えられる。例えば、研究代表者の岩佐は、本研究とは別の調査で、甘粛省天水市の麦積山石窟を訪れた際に、隋代に遡る塑像の心木を確認しており、本体と腕で用材を変えているなど注目すべき作例であると認識した。従来、中国彫刻史研究者によってもこの心木はほとんど注目されておらず、こうした例は今後も見出されていく可能性がある。本年度訪れた山西省、河北省には宋代以降の木彫像が比較的多く伝存していることからすれば、さらに綿密な調査が必要と思われる。中国での調査はいろいろな制約があり、また予算面でも十分には行えないが、可能な限り現地に赴き、基礎データの収集に努める予定である。 新たな樹種分析法の開発のために、連携研究者の安部氏を中心に、近赤外分光分析や香りの分析も進め、そのデータの蓄積にも努めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
所属する機関の本来の業務が逼迫して、調査に参加できないメンバーが毎回出てしまい、旅費が十分に消化できなかった。 次年度は国内調査の回数を増やしていき、中国での調査は4~5名で実施する予定である。
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