研究課題
本年度は、研究期間を延長させていただき、以下の内容で調査を実施した。①4月15日東海大学十一面観音立像、②5月20日山梨・安楽寺観音菩薩立像(山梨県立博物館寄託)、③5月21日山梨・福光園寺天部立像(香王観音)、④11月8日、12月5日東京国立博物館開催の特別展「平安の秘仏 滋賀の大観音とみほとけたち」出品作品19躯、⑤2017年1月29日東京・浅草寺観音菩薩立像(榎本尊)、同僧形坐像。いずれも参加可能なメンバーによって実施し、樹種分析も行った。樹種については①がクスノキ科、②がサクラ属、③ケヤキ、④は調査対象となった19躯のうち、13躯がヒノキ(うち2躯はヒノキと推定)、5躯がカヤ、1躯が不明、⑤は観音像が広葉樹(樹種は不明)、僧形像はクスノキ科という結果を得た。特に④の十一面観音坐像は櫟野寺の本尊で坐高が3メートルに及ぶ巨像として知られるが、樹種はヒノキであった。この像と作風が類似する像は10~11世紀の作例と考えられるが、いずれもヒノキと推定された。これは、日本の木彫像の樹種が11世紀半ば頃からヒノキが使用される可能性が高いことを考慮すると、10世紀頃に木彫像の用材観がカヤからヒノキへ移行する様相を示唆し注目される。⑤の僧形像は中国の唐代の作とも推定されている京都・善願寺の僧形坐像2躯と作風が類似し、善願寺像と本来一具をなしていた可能性もある。本像の樹種はクスノキ科に同定されたが、日本には植生上存在せず、古来中国で彫刻用材として珍重されてきた「楠木」である可能性もあり、日本の「樟」との関係を検討していく上で注目される。その他、これまでデータを蓄積してきた神像について、データ公表のための準備を行った。データ数は必ずしも十分とはいえないが、そこから畿内を境界として東日本ではヒノキ、西日本ではカヤが採用される大まかな傾向を読み取ることができ、近く公表する予定である。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 2件)
美學美術史論集
巻: 21 ページ: 1-58
『興福寺の寺宝と畠中光享』展カタログ
巻: なし ページ: 130‐132
特別展『平安の秘仏 滋賀の大観音とみほとけたち』カタログ
巻: なし ページ: 14-19
Journal of Wood Science
巻: 62(2) ページ: 210-212
木材学会誌
巻: 62(6) ページ: 240-249