研究課題/領域番号 |
24340087
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松村 武 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (00312546)
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研究分担者 |
道村 真司 埼玉大学, 研究機構科学分析支援センター, 助教 (40552310)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 磁性 / 低温物性 / 多極子秩序 / 共鳴X線回折 |
研究概要 |
電子のスピンと軌道の自由度が絡み合って生じる電気四極子や磁気八極子,さらには電気十六極子など,f電子系化合物で発生する多彩な電子秩序構造を明らかにすることが目的である.用いる手法は,極低温磁場中共鳴X線回折および完全偏光解析である.本年度はCeTeの磁気秩序相と磁場誘起秩序相,Ce0.7La0.3B6の磁気八極子秩序相での格子歪み,SmRu4P12における磁場誘起秩序相の解明を目的とする実験を行った.また,Ce0.7La0.3B6については,これまでに行われた共鳴X線回折実験の結果の解析を進め,一連の研究成果を論文にまとめた.その骨子は,反強八極子秩序相で磁場をかけると,磁場誘起相の秩序変数であるOxy型反強四極子秩序が強く誘起されてくること,また,それが分子場モデルからの予測と比べて極めて大きいことである.実験結果自体はごく自然な結果であるが,それが分子場モデルでは説明できない点が重要であり,そこに,この物質の背後にある,様々な多極子秩序変数の競合と,それに伴うゆらぎがあると考えられる. CeTeでは,磁気秩序相での磁気散乱の観測に成功した.一方で,磁場誘起相での四極子秩序による信号は検出できなかった. 充填スクッテルダイトSmRu4P12では,長年の謎であった磁場誘起秩序相が,伝導バンドであるp軌道に生じる電荷秩序相(CDW)であることをつきとめた.磁場中で,電荷秩序によって引き起こされる格子歪みが観測され,また,同時に反強磁性モーメントの磁場方向成分が誘起されることを突きとめた.これらは,p-f混成によって引き起こされる,スクッテルダイト系特有の全対称秩序であり,Pr系でこれまで観測された秩序機構と基本的には同様であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極低温,磁場,完全偏光解析という,世界的にもほとんど類を見ない,この実験システムを用いてしか測定することのできない実験がほとんどトラブルなく行われ,実験データも着実に積み重ねられている.データの解析からまとめまでの過程が,各物質ごとに特有の手法で行われるため,一つ一つに時間がかかるが,着実に論文にまとめられつつある.また,SmRu4P12では,これまで未解明で,多くの研究者にとっての謎あった秩序相に対し,本研究によるX線回折実験が初めて明瞭なな実験データを出すという形で解明に貢献することができた.
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今後の研究の推進方策 |
SmRu4P12などの充填スクッテルダイト系を中心に,全対称秩序とCDW形成との結合過程を,磁場という外場を加えて応答を調べることで,その相互作用の様相をより明確にしていく.SmRu4P12では,格子歪みの精密測定,磁場誘起反強磁性の直接観測,磁場方向を変えた場合の転移の様子の変化など,全貌を解明するために必要な多くの実験が残されている.その知見を土台として,PrFe4P12やPrRu4P12など,他のスクッテルダイトについても,全対称秩序とCDW形成との結合過程を我々の手法で研究することは,新しい形の相互作用を明瞭にしていく点で意義があると考えられる.また,Ce0.7La0.3B6で転移温度以上まで残るE1共鳴の起源についても,ゆらぎとの関係が示唆され,本格的に実験を行っていくことも重要なテーマであると考えている.
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