研究課題/領域番号 |
24370092
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
上野 直人 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 教授 (40221105)
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研究分担者 |
鈴木 誠 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 助教 (10533193)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 形態形成 / 低分子化合物 / 細胞応答 / カルシウム / ATP |
研究概要 |
カルシウム結合時の蛍光変化が大きい遺伝子コード型プローブGECOを用いて、脊椎動物のモデルとしてのアフリカツメガエル神経管閉鎖時の細胞内カルシウム動態を観察し、その動態と閉鎖運動に大きく寄与する神経上皮細胞の変形(細胞形態形成)との関連について研究した。その結果、細胞内カルシウム上昇と頂端側の細胞辺が短くなり頂端側の細胞表面積が縮小する頂端収縮の間には時空間的に密接な相互相関があることがわかった。また、ケージドIP3を胚細胞内に注入し、その後紫外線(UV)照射によるアンケージングでIP3を活性化させ、局所的に細胞内カルシウムを上昇させることによって、人為的に細胞表面積を縮小させることができることを確認した。これらの結果より、カルシウム動態は神経管閉鎖時の細胞変形と機能的連関があることを示すことができた。さらに、神経板内における細胞内カルシウム上昇にはひとつの細胞内でのみ見られるものと、周囲の数十細胞に伝搬するものとがあることが明らかになった。細胞外ATPの枯渇実験から、この伝搬のメカニズムには細胞外ATPが必要であることを明らかにした。さらに、ATPで組織を刺激し、頂端収縮を誘導する実験系において、細胞-細胞間を物理的に連結する細胞接着の重要性について検討した。神経管上皮細胞で発現する主な細胞接着因子カドヘリン(N-Cad)タンパク質をモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(MO)による翻訳阻害で減少させると、カルシウム伝播や細胞及び頂端収縮を伴う組織変形が阻害されるとの予備実験結果を得ている。このことは、組織変形の統合性の維持には細胞接着が重要な役割を担っていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H25年度までに新規蛍光カルシウム検出プローブGECOを用いて、神経管閉鎖時の細胞内カルシウムのライブイメージングに成功し、その蛍光強度と細胞収縮率との相関、Ca2+の伝播と細胞収縮との時空間的相関およびオシレーションパターン(振動数/波長)と細胞頂端収縮との関連などについて明らかにしつつある。また、カルシウム阻害剤を用いた実験から粗面小胞体(ER)から細胞質へのカルシウムの放出、細胞外から電位依存性チャネルを介したカルシウム流入の両者の関与が示唆された。とくに、ATPを分解する酵素NTPDaseを細胞外に提示する改変型として神経板内で発現させ細胞外ATPを枯渇させる実験から、数十細胞にも広がる伝播性の細胞内カルシウム上昇には細胞外ATPを必要とすることも明らかになった。また神経管を形成する神経上皮細胞をケージド(不活性化)ATPに暴露し、UV照射することで局所的に細胞外ATPを活性化すると細胞内カルシウムの上昇を引き起こすことができることがわかった。現在、細胞外ATPはATP受容体であるP2Yファミリー受容体を介してERからの放出を制御しているものと予想している。これらの研究からATPとCa2+をつなぐシグナル伝達系の一部が明らかとなってきた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は細胞内カルシウムのオシレーションの単位時間あたりの頻度やパターンが細胞変形(頂端収縮)にどのような影響を及ぼすのかについて、細胞内Ca2+上昇の次に起こる事象に着目した研究を行うことを計画している。とくに細胞中心部に一過的にF-アクチンフィラメントの集積がみられることから、Ca2+上昇後に、カルモジュリンキナーゼなどを介した生化学反応が起こり、その結果、F-アクチン動態が制御され、頂端収縮が起こるのではないかと予想している。そのシグナル伝達系を明らかにしていきたい。その際、現在行っている神経上皮細胞の頂端側の2次元平面での解析(面積変化、細胞辺の長さ変化)から頂底軸(深さ方向の軸)を加えた3次元平面での解析へと進めたい。アフリカツメガエルは細胞に多くのメラニン色素を含むため、深部観察は技術的には非常に困難であるが、二光子顕微鏡など先端的な顕微鏡技術を用いて、神経管形成時の神経板内での細胞変形の実態を明らかにしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度途中で基礎生物学研究所、小山宏史博士の協力を得て、細胞内カルシウム上昇後に起こる細胞変形の数理モデル構築を行ったために、実際のアフリカツメガエルを用いた分子生物学的、細胞・発生生物学的研究が一時的に止まった。したがって、その間に使用する分子生物学研究に必要な試薬類、アフリカツメガエル個体など経費の執行が抑えられる結果となった。 H26年度にはアフリカツメガエル胚を用いた実験を本格的に再開し、細胞内Ca2+と細胞変形の因果関係を細胞骨格に着目して明らかにする。顕微鏡による画像取得の質を高めるために、繰り越し分は顕微鏡レンズや温度制御ステージなどに使用する予定である。一方、数理モデルについても、ヴァーテックス(Vertex)モデルを用いた解析を行い、細胞の①「面積」、②「周辺長」、③「表面張力」、それぞれの変化に弾性を与え、エネルギーの総和をVertexの関数として表すモデルを構築しつつある。H26年度は、このモデルに、表面張力の増加と変動の両方を付加し、パルスの時空間的密度を局所的に高めることによって、組織全体の収縮にどのように影響されるかなどについて検討を行うため、コンピュータや周辺機器の購入を計画している。
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