研究課題/領域番号 |
24500882
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
大澤 郁朗 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (30343586)
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キーワード | 水素分子 / 酸化ストレス / ミトコンドリア / 細胞 / 健康長寿 |
研究概要 |
神経芽細胞SH-SY5Yを50%の水素分子存在下で24時間培養後、過酸化水素0.1又は0.3 mMを添加し、さらに24時間培養した。すると、水素分子非存在下で培養した場合と比して細胞死が抑制された。しかし、過酸化水素添加後に50%の水素分子存在下で培養しても細胞死を抑制することはできなかった。この水素分子前処置による細胞死抑制効果は用量依存的で5%の水素分子でも有意な効果を示した。また、3時間の前処置で細胞保護効果が認められた。以上の結果は、水素分子が過酸化水素添加で増加する活性酸素種を還元することで細胞死を抑制すると考えるより、水素分子存在下で培養することによって細胞に酸化ストレス防御能が備わる、適応応答の存在を強く示唆している。尚、水素分子前処置による酸化ストレス防御効果は処置後3時間まで継続し、6時間後には消失する一過的なものであった。そこで、ミトコンドリア機能と酸化ストレス防御に関する詳細な検討を進めた。水素分子前処置によるミトコンドリア機能変化については、50%の水素分子で24時間前処置した細胞をミトコンドリア膜電位感受性色素JC-1で染色しミトコンドリア膜電位を計測したところ有意な上昇が認められた。さらに細胞あたりのATP量が増加していた。細胞あたりのstate 3における酸素消費を計測すると水素分子前処置による消費速度の増加が認められた。このとき,ミトコンドリアDNAのコピー数は増加していないことをqPCRで確認している。また、水素分子前処置によりグルタチオンの一過的な減少とスーパーオキシドの増加が認められた。さらにNrf2の核移行が認められたことから酸化ストレス関連酵素遺伝子の発現を定量的PCR法で確かめたところ、カタラーゼとグルタチオン還元酵素が有意に増加していた。これらの知見を基に、マウス肺疾患モデルを用いて水素分子の作用機序に関する研究を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度から25年度にかけて細胞を用いた研究から、水素分子存在下で培養することにより細胞が酸化ストレスにたいして抵抗性を獲得することが明らかとなった。水素分子がミトコンドリアを活性化すると共に軽度の酸化ストレスを細胞にあたえることでNrf2が活性化され、その結果として抗酸化酵素類の発現が増加した為と考えられる。このような適応応答あるいはホルミシス効果が、水素水などを投与した場合の抗酸化効果に結びついているものと考えられる。25年度は、疾患モデルの確立に時間を割いた。肺に炎症を起こし、これに水素分子を高濃度に含む水素水を投与する系を複数確立し、細胞レベルの研究成果を動物モデルで確認する基礎的検討を終わっている。
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今後の研究の推進方策 |
実験動物による水素分子のホルミシス効果検討 正常マウスへの水素水投与:細胞を用いた実験結果を基に酸化ストレス防御関連酵素の発現と活性及びミトコンドリアの機能変化を主要臓器で調べる。投与は、数日間の短期または半年程度の長期を予定。 疾患モデルマウスへの水素水投与:昨年度に確立した肺疾患モデルを中心に、水素分子による治療効果が確認されている複数のモデル動物を用いて、水素分子の投与効果を細胞での作用機序と照らし合わせながら解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度繰越金があり、これを当該年度に使用した為。 次年度に細胞・動物実験などの消耗品代として使用する。
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