研究課題/領域番号 |
24501264
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
山田 哲也 (財)元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80261212)
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研究分担者 |
植田 直見 (財)元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10193806)
大国 万希子 (財)元興寺文化財研究所, 研究部, 技師 (40250352)
木戸 晶 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80595710)
藤本 晃司 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10580110)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水浸出土木材 / MRI / 保存処理 |
研究概要 |
平成24年度は、京都大学医学部附属病院内に設置されている臨床研究用の1.5Teslaと3Teslaの東芝メディカルシステム社製の磁気共鳴イメージング(Nuclear Magnetic Resonance Imaging : MRI)を利用し、保存処理前の水浸出土木材の劣化状態を可視化することを目的とした。水浸出土木材の研究者とMRI技術に詳しい研究者が共同で、水浸出土木材の内部構造をMRIで正確に描出するため、臨床用に従来用いられてきたMRIのT1(縦緩和)強調像やT2(横緩和)強調像などのコントラスト画像を適切に画像化するための撮像法とT1値、T2値、MT ratioなど定量的指標を得るための適切な撮像条件の検討を行った。 保存処理前の水浸出土木材(広葉樹:クリ材)のMR imagingに関する検討を行った結果、水浸出土木材中に存在する水分の殆どが結合水の状態で木材内部に存在する可能性と、埋没中に地下水に多く暴露されていたと考えられる部分ほどT1(縦緩和)短縮効果が強く認められることが確認できた。また、3種類の薬剤(ポリエチレングリコール、ラクチトール+トレハロース、脂肪酸エステル)を用いた保存処理方法で保存処理を行った後の水浸出土木材(広葉樹:クリ材)に対して、試験的にCT(X-ray Computed Tomography)画像を撮像したところ、保存処理薬剤が異なると画像コントラストが大きく異なることがわかった。 このことから臨床研究用のMRIを利用して水浸出土木材中の水分分布に関する情報を得て、劣化状況を可視化することは、水浸出土木材の内部性状を把握するための非破壊診断法として有効的な手法であるとの確証を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、MRI撮像用に予定していた針葉樹の水浸出土木材を発掘現場から入手することが困難になったため、急遽、以前から手元に保管していた広葉樹の水浸出土木材片をMRI撮像に供して研究を開始した。木材組織の複雑な広葉樹(クリ材)の水浸出土木材を試験片としたため、MR imagingの解釈が難しいところがあった。 また、MR imagingでは、金属成分の有無により、画像が場合によっては大きく変化することが知られており、水浸出土木材のキレート処理前後の変化は保存処理前の大事なコントロールとなる。広葉樹(クリ材)の水浸出土木材をキレート剤に浸漬したのちの経時変化をT1強調像とT1 mapping画像を用いて撮像を行なったが、この試験片では結果として、キレート剤による脱色処理前後のMR imagingの変化を確認することが出来なかった。おそらく埋没環境においてFeイオンを主とする金属イオンを含有することが少なく、これまでの水漬けの保管環境内で金属イオンが流出してしまった可能性が高いものと考えられた。そのため、埋没環境から金属イオンの影響を受けている水浸出土木材を試験片として、再度、平成25年度にキレート剤の影響を可視化するための撮像法の検討を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の基礎的な撮像条件を導きだした上で、針葉樹材の水浸出土木材に対して複数の異なる保存処理を実施し、MRI撮像に加えてCT画像の撮像を行い、経時的に保存処理(薬剤含浸)過程のモニタリングを行い、保存処理薬剤の含浸プロセスを可視化できるかどうかを検討する。保存処理後の画像は、元来の出土木材の状態に、薬剤や保存過程(凍結、乾燥等)による情報が付加・修飾され、その解釈が非常に困難になる。このため、処理前から経時的にその過程を追いながらMRI及びCTの撮像を行い、薬剤含浸の状態の把握も含めた木材の情報を得る。また、保存処理手法により、適切な画像検査、パラメータが限られてくると考えられるので、それらの最適な条件や手法が必要となる。例えば、乾燥処理を行うとMRIは画像を得ること自体が困難となる可能性があり、この場合、CTが重要な情報源と成り得る。よって、それぞれの保存処理方法・時期に最適となる画像検査・撮像手法の最適化を確立してゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
木材組織の複雑な広葉樹(クリ材)の水浸出土木材片をMRI撮像に供したため、MR imagingの解釈が難しい点があった。そのために木材組織のより単純な針葉樹の水浸出土木材を入手する必要が生じた。また、この試験片は埋没環境から金属イオンの影響をほとんど受けていなかったため、キレート剤の影響を可視化するための撮像法の検討を行えなかった。これらのために平成24年度はMRIの撮像法の検討に適した針葉樹の水浸出土木材の入手に時間を費やし、京都大学での計画していたMRI撮像回数を実施することが出来なかった。 水浸出土木材の内部性状を把握するためのMRI画像やCT画像は、コンピュータ上で画像解析する必要があるが、平成24年度はMRI撮像回数が少なく、多くの画像解析を行えなかったため画像解析用のコンピュータの購入を見送った。 平成25年度は、前年度に撮像出来なかったデータをも蓄積する必要があるため、データ処理能力ある画像解析用コンピュータを設置し、MRI画像やCT画像を取り扱える画像解析ソフトをあわせて購入する。また、基礎的な画像解釈の検討に適したMRI撮像に用いる針葉樹材試料の入手、京都大学でのMRI撮像、研究成果発表のための旅費を国内旅費として使用する。
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