研究課題/領域番号 |
24501264
|
研究機関 | 公益財団法人元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80261212)
|
研究分担者 |
植田 直見 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10193806)
大国 万希子 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 技師 (40250352)
木戸 晶 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80595710)
藤本 晃司 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10580110)
|
キーワード | 水浸出土木材 / MRI / 保存処理 / ポリエチレングリコール |
研究概要 |
平成25年度は、保存処理前の水浸出土木材の劣化状態と保存処理用の薬剤浸透プロセスの可視化に努めた。水浸出土木材の内部構造をMRIで正確に描出するため、臨床用に従来用いられてきたMRIのT1(縦緩和)強調像やT2(横緩和)強調像などのコントラスト画像を適切に画像化するための撮像法とT1値、T2値など定量的指標を得るための適切な撮像条件の検討を行った。 木材組織が単純な針葉樹の水浸出土木材(マツ属二葉松類:含水率450%)を試料として、水浸出土木材の劣化状況のMR imagingに関する検討を行った結果、埋没中に地下水に暴露されて劣化の進行が考えられる表面部分ほどT1強調画像において高信号を示してT1短縮効果が確認できた。また、T2強調画像やプロトン密度強調画像では、早材部で高信号、晩材部や節の部分で低信号を示し、年輪構造に沿ったコントラストが描出された。 次に、劣化状況のMR imagingを行った針葉樹の水浸出土木材にポリエチレングリコール(PEG)溶液に20%毎に2週間含浸させた後に、3D Field echo法にてMTC pulseありとなしの2種類の画像を各々撮像のうえ、そのMR画像に関心領域を設定し、MTC pulseありとなしの画像から磁化移動率(magnetic transfer ratio:MTR)およびその変化率ΔMTR(PEG(+) – PEG(-))を算出して、高分子物質に対して反応性のある磁化移動(magnetic transfer)効果とPEGの浸透性を評価した。その結果、PEG溶液濃度が上昇するとMTRが低下した。また、ΔMTRの低下から体積の大きな水浸出土木材は、高濃度PEGに置換するには2週間では不十分であることが示された。このことからMTRを計測することにより非破壊でPEGの浸透性を評価できることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
木材組織の比較的単純な針葉樹の水浸出土木材を用いて、断層像を適切な空間分解能で撮像するための撮像シーケンス(従来のT1強調像、T2強調像、プロトン密度強調像、近年広く用いられ水の拡散現象を反映するとされる拡散強調像など)を用いて、木材の状態にあわせた適切なシーケンスを選択できるように検討した。その上で、各シーケンスの撮像条件(field of view, matrix, 受信バンド幅、撮像コイル、acceleration factorなど)をも検討した。また、縦緩和(T1)時間および横緩和(T2)時間を強調した画像を撮像するためのパラメータ(repetition time、echo time)、定量値を計測するための撮像条件(repetition timeの組み合わせ、echo timeの組み合わせ)などの検討を行なってきた。しかし、医療の分野では広く一般に用いられているMRIのパラメーターを含めた撮像法は非常に多岐にわたり複雑で様々なMR画像を得られるがその画像の解釈が難しい。そのうえ、水浸出土木材毎にその劣化状態がかなり異なっていることも加味されたMR画像の解釈がさらに難しいこと数多くがあり、異なる劣化状態で出土した水浸出土木材に対して有効的な撮影条件を導き出すことができず、更なる基礎的検討を行わなければならない。 また、TI(Inversion Time)を変化させたIR(Inversion Recovery)法で撮像したMR画像からT1map画像を作成し、水浸出土木材の各部位における縦緩和時定数(T1時間)を定量値として評価・比較することが可能である。しかし、PEGの各含浸過程における浸透状況の定量的な評価がうまくできていないため、今後、その評価をしっかりと行なう必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
水浸出土木材は埋没環境中の地下水の影響により鉄イオンを主とする金属イオンが沈着しているため、キレート剤で除去するのが一般的である。MR imagingでは金属成分の有無によりT1値を短縮することが知られており、このキレート処理前後のT1強調画像やT1map画像を用いてT1短縮効果の検証を行なう。 また、針葉樹材の水浸出土木材に対して複数の異なる保存処理を実施し、その保存処理薬剤の各含浸過程において平成25年度に導きだした基礎的なMR imaging(T1強調画像、T2強調画像、プロトン密度強調画像の各シーケンスやTI(Inversion Time)を変化させたIR(Inversion Recovery)法、3D Field echo法でMTC pulseありとなしの撮像など)を用いて様々なMR画像を得る。また合わせてCT画像の撮像をも行なう。これにより、各種の保存処理方法により、MRI・CTいずれのモダリティが適切であるか、MRIのいずれのシーケンス・パラメータが最も描出能が高いか検討する。経時的に薬剤含浸過程のモニタリングを行なうことで保存処理薬剤の含浸プロセスを可視化することと、MR画像から磁化移動率(magnetic transfer ratio:MTR)およびその変化率ΔMTR(PEG(+) – PEG(-))を求めることで薬剤含浸の評価を行ない、水浸出土木材内の置換すべき水分がどの程度残存しているかを定量化できるかどうかについて検討を行い、それぞれの保存処理方法における最適となる画像検査・撮像手法の最適化を確立することを目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度はMRIの撮像法の検討に適した針葉樹の水浸出土木材の入手に時間を費やし、当初、京都大学で計画していたより少ない回数の撮像しかできなかった。さらに、撮像したMR画像の解釈にも時間が掛かり学会や研究会等への発表参加しなかったため旅費に繰越しが生じた。その他にMR画像の画像解析用コンピュータの購入を見送った。 平成26年度は京都大学でより多くのMR画像を取得するための旅費や基礎的な画像解釈の検討に適したMRI撮像に用いる針葉樹材試料の入手、および研究成果発表のために国内旅費として使用する。 また、水浸出土木材の内部性状を把握するためのMR画像やCT画像は、コンピュータ上で画像解析する必要があるためデータ処理能力ある画像解析用コンピュータを購入する。
|