研究課題
基盤研究(C)
我々は、骨転移の進展に重要な役割を果たす腫瘍間質相互作用のメカニズムを、前立腺がんおよび乳がん細胞を用いた動物モデルにより解析している。ラット前立腺がん組織を同系ラットの頭蓋骨直上に移植すると、腫瘍と頭蓋骨が接する骨浸潤先進部で、ヒト前立腺がんの造骨性骨転移巣と同様の組織像がみられ、破骨細胞から分泌されたMMP7は骨芽細胞に発現する膜貫通型タンパクであるRANKLを切断し、生成された可溶性RANKL(sRANKL)は破骨細胞の分化誘導を促進することを明らかにした。マウス乳がん細胞株を用いた同様のモデルにおいて破骨細胞由来のCathepsin Gにより生成されたsRANKLは溶骨性変化の促進作用に加え、乳がん細胞の増殖促進作用を示すことが判明した。骨微小環境における前立腺がん・乳がんの細胞増殖率は、 腫瘍間質相互作用を伴わない領域に比べ上昇していた。いずれも骨微小環境ではTGFβ1 receptorの発現が上昇しており、溶骨性変化の進展に伴い骨微小環境に放出された骨基質由来のTGFβは、骨微小環境における前立腺がんおよび乳がんの細胞増殖率を促進すること、また破骨細胞の分化誘導を促進することを見いだした。さらにTGFβシグナルとERK1/2、PTEN、AKTおよびBMPのシグナルの関連を乳がんのモデルを用いて検索した結果、TGFβは腫瘍細胞におけるERK1/2, 間質細胞におけるPTENおよび骨微小環境におけるAKTと連動することが判明した。また、TGFβのレセプターであるTGFβレセプター1の発現は、時間とともに上昇することも判明した。このように、骨微小環境においては、遺伝子発現を制御することにより、骨微小環境に適応して増殖することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標は、腫瘍細胞は骨微小環境において、適応する際に発現上昇する遺伝子の同定、ならびに、その発現が制御されることの確認であった。その結果、 TGFβレセプターの発現上昇が、適応するメカニズムに関与することが明らかとなり、これを制御するmicroRNAも同定できた。
我々は、骨微小環境に到達した腫瘍細胞は、miRNAにより遺伝子発現を調節し、腫瘍間質相互作用が誘導され溶骨性変化が促進される可能性が示唆されたので、今後、これを検証する目的で同定したmiRNA(MIR205)の強制発現株を樹立し、このmiRNAの骨微小環境における機能を我々の開発した動物モデルを用いて解析する。 さらに、miRNAを強制発現時に発現が低下する遺伝子をmicroarray解析により同定する。また、同定された遺伝子発現をsiRNAにより抑制し、骨微小環境における腫瘍細胞の増殖や溶骨性変化が抑制されるかどうかを我々の動物モデルで検証する。
次年度使用額の192,259円と平成25年度請求額の1,950,000円と併せて、消耗品に使用する予定である。
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