研究課題
欧米で罹患率の高い前立腺がんや乳がんは高率に骨転移巣を形成する。臨床的に転移巣は治療抵抗性を呈するため、その進展は患者にとって致命的なものとなる。病理組織学的に骨転移巣では腫瘍細胞の増殖像に加え、破骨細胞による骨破壊像や骨芽細胞による骨基質の形成が観察され、骨微小環境における腫瘍間質相互作用が骨転移の進展に重要な役割を果たしていると考えられる。我々は骨微小環境における前立腺がんや乳がんの増殖を解析できる動物モデルを開発した。このモデルを用いて、Receptor activator of NF-kB ligand (RANKL)は破骨細胞を誘導し溶骨性変化を拡大すること、TGFβ receptor1は骨基質由来のTGFβのシグナルを腫瘍細胞に伝達し増殖促進作用を示すことが判明した。RANKLやTGFβR1などの既知の骨転移関連因子の発現量は環境により異なり、培養下や皮下移植では低く骨微小環境では高いことから、腫瘍細胞は骨微小環境で転移関連因子の発現制御を行っていると考えられる。そこで我々は骨微小環境において腫瘍細胞は、microRNAによる発現制御により微小環境に適応し増殖すると仮説をたて、増殖促進作用に関与するmicroRNAの同定とその機能解析を行った。その結果、骨微小環境ではmicroRNA-205(miR205)の発現が経時的に減少することを見いだした。さらにmiR205を過剰発現する細胞株を樹立し様々な抗がん剤に対する感受性を検索すると、ER阻害剤に対し感受性を示したMock株は、AR, HER2, EGFRなどの阻害剤に対し耐性を示したがmiR205過剰発現株ではこれらに対し感受性を示した。このように、原発巣から骨微小環境へ移動した腫瘍細胞は、miR205による発現制御メカニズムにより微小環境に適応し増殖を続けた結果骨転移巣が形成されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標は、腫瘍細胞は骨微小環境において、適応する際に発現上昇する遺伝子の同定、ならびに、その発現が制御されることの確認であった。その結果、 原発巣から骨微小環境へ移動した腫瘍細胞は、miR205による発現制御メカニズムにより微小環境に適応し増殖を続けた結果骨転移巣が形成されることが示唆された。さらにmiR205過剰発現株を作成し、in vitroにおいてmiR205は薬剤感受性に関与することも明らかにした。
我々は、骨微小環境に到達した腫瘍細胞は、miR205により遺伝子発現を調節し、腫瘍間質相互作用が誘導され溶骨性変化が促進される可能性が示唆されたので、今後miR205の骨微小環境における機能を我々の開発した動物モデルを用いて解析する。 さらに、樹立したmiRN205Aを強制発現時に発現が低下する遺伝子をmicroarray解析により同定する。また、同定された遺伝子発現をsiRNAにより抑制し、骨微小環境における腫瘍細胞の増殖や溶骨性変化が抑制されるかどうかを我々の動物モデルで検証する。
必要な抗体(6万円)を購入するには不足していたため。平成26年度と併せて消耗品に使用する予定
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 4件)
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