研究課題
基盤研究(C)
新規に樹立した骨肉腫マウスモデルに対して、化学療法を施行した結果、未治療群に比較してIgf2のmRNAの有意な上昇を認めた。そこで、Igf2の骨肉腫細胞へ果たす役割をin vitroで検討した結果、Igf2の存在により細胞周期はG1期に集積し、S期が顕著に減少した。興味深いことに、この変化は可逆的であった。さらに、細胞免疫染色の結果、Ki67発現の低下がみられ、ウェスタンブロット解析の結果、Cyclin D, Eの低下が明らかとなった。以上の所見からIgf2への長期暴露は骨肉腫細胞に休眠状態を誘導する効果があることが示唆された。同様の所見は、ヒト骨肉腫細胞(SAOS2, U2OS, SJSA1)でも見られた。Igf2が誘導する休眠様の状態下において細胞周期はゆっくり回転していることが示唆されるが、1)増殖と細胞死を拮抗させるdynamicな平衡関係が存在するか、もしくは2)細胞周期を停止させ真の休眠状態にあるかが不明であった。そこで、顕微鏡経時的連続撮影による観察を行った結果、後者である可能性が示唆された。現在、その分子機構に関し解明を進めている。上記、休眠様状態に陥った細胞はADR、MTXなど複数の抗癌剤に高い抵抗性を示すが、増殖期にある細胞に比較してDNA傷害が入りにくい状況にある可能性が示唆された。なぜDNA傷害を受けにくいか、現在原因解明を進めている。in vivoにおけるIgf2発現レベルの上昇を支持する分子機構として骨肉腫細胞で高く発現するIgf2bp3の関与が浮上した。解析の結果、Igf2の発現制御への関与は否定的であったが、in vivoにおける腫瘍形成を可能にする重要な因子であることが明らかとなり海外誌へ報告した(PLoS One, 2012)。
2: おおむね順調に進展している
Igf2が骨肉腫細胞に休眠状態をもたらすin vitroの培養、時間などの条件はここまでの解析で明らかとなり、増殖の速い骨肉腫細胞を生存したまま確実に細胞周期停止させる技術は確立できた。一方で、休眠状態を引き起こす分子機構、薬剤に耐性化を示す機構の完全な解明は現在、未だなされておらず、解析を急いでいる。また、なぜ化学療法後にIgf2が上昇するかについては、はっきりとした結果が得られていない。DNA傷害、低酸素など細胞ストレスもIgf2を強力に誘導することはなかった。血清非存在下がmRNAレベルで最もIgf2を上昇させる条件であったが更なる条件検討を進めている。
Igf2が骨肉腫細胞に休眠状態を引き起こす分子機構、薬剤への耐性化をもたらす機構を明らかにした上で以下の検討を行う。[休眠状態のバイオマーカーの解明] 腫瘍細胞の休眠をin vitro、in vivoでモニターできるバイオマーカーを取得する。休眠に入った細胞から特異的に産生される液性因子を仮定し、Bioplexなどを活用してサイトカイン、増殖因子のin vitroにおけるスクリーニングを行い活用できる分子を解明する。休眠状態で特異的に活性化される細胞内シグナル伝達に関しては、組織標本を用いた候補分子とKi67の免疫染色、腫瘍組織から作成したsingle cell suspensionにおけるリン酸化タンパクの定量化+細胞周期解析(FACS解析)により休眠状態のバイオマーカーとして活用できるか検討する。[休眠状態の克服に向けた治療効果検証] 休眠状態において骨肉腫治療戦略上最も重要な知見は、抗癌剤に対して高い耐性を示す点である。細胞死・腫瘍の縮小をout putとして、「休眠状態特異的代謝経路」を標的とする低分子化合物、中和抗体、shRNAを用いて治療効果を検証する。加えて、微小環境側の影響を解明する手段として、鍵となる分子のノックアウトマウスが入手可能な場合は利用し、野生型マウスとの治療への反応を比較する。その過程においては既述の研究で探索、取得したバイオマーカーの候補の有用性の確認を同時に行う。[ヒト骨肉腫検体を用いた検証] ここまでで得られたマウスにおける知見がヒト骨肉腫においても存在し、機能しうるか普遍性を検討する。遺伝子解析、免疫染色でヒト骨肉腫においても治療に伴い休眠に入る細胞が存在するか、上記で取得したバイオマーカーを活用し検証する。また文献から利用できるヒト骨肉腫の遺伝子プロファイルや購入可能なヒト骨肉腫組織アレイも利用し、解析の幅を広げる。
前年度に引き続きIgf2が骨肉腫細胞に休眠状態を引き起こす分子機構、薬剤への耐性化をもたらす機構の解明を行う。研究費は下記解析に必要な消耗品購入に使わせて頂く予定である。PI3K-Akt経路の不活性化の分子機構、細胞周期を停止させる分子の同定に特に焦点を絞り検討を行う。ここまでの過程で解明できなかった、なぜ化学療法後にIgf2が上昇するかについて分子機構の解明を進める。具体的には骨肉腫細胞にin vitroで種々の細胞ストレスを加え、最もIgf2を上昇させる条件を解明し免疫染色でin vivoにおける関与を検証する。次に、これらの知見をもとに、腫瘍細胞の休眠状態をin vitro、in vivoでモニターできるバイオマーカーを取得する。休眠に入った細胞から特異的に産生される液性因子を仮定し、サイトカイン、増殖因子のin vitroにおけるスクリーニングを行い活用できる分子を解明する。休眠状態で特異的に活性化される細胞内シグナル伝達に関しては、組織標本を用いた候補分子とKi67の免疫染色、腫瘍組織から取得した細胞を用いたin vitroの解析により休眠状態のバイオマーカーとして活用できるか検討する。休眠状態に関して骨肉腫治療戦略上最も重要な知見は、抗癌剤に対して高い耐性を示す点である。耐性克服を目指して、上記解析から明らかとなる分子、シグナル経路を基盤として、細胞死・腫瘍の縮小をもたらしうる低分子化合物、中和抗体、shRNAのin vitro、in vivoにおける効果検証を行う。この際、癌微小環境側の影響を解明する手段として、関与が示唆される分子のノックアウトマウスが入手可能な場合は利用し、野生型マウスとの治療への反応を比較する。治療効果検証の過程においては上記研究で探索、取得するバイオマーカーの有用性の確認を同時に行う。
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