研究課題
24年度までの観察結果からIGF2、Insulinは骨肉腫マウス細胞、ヒト骨肉腫細胞株(SAOS2, U2OS, SJSA1)に対して、細胞一つ一つのレベルで細胞周期を停止させ、休眠状態を誘導することが明らかとなった。細胞周期停止の分子機構を明らかにする目的で、CDK阻害因子のタンパク量を調べたところ、関与は否定的であった。一方で細胞周期を促進するCyclinのタンパク発現が低下していた。PI3K-AKT経路の活性化を評価したところ、休眠状態誘導下では、AKT, p70S6K, S6のリン酸化は著明に低下していた。一方でIGF2の受容体であるIGF1Rは恒常的に活性化しており、IGF1R以下のシグナルの不活化が休眠状態誘導に関与している可能性が示唆された。これらシグナル伝達経路の不活化は血清添加による細胞周期の回転再開に伴い再び活性化状態に戻った。休眠状態では各種抗癌剤に対して高い耐性を示したが、DNA障害を回避することが一つの機構として示唆された。休眠状態を克服しうる即ち、感受性を示す薬剤を見出すためスクリーニングを行ったところ、autophagy、glutamine代謝を阻害する化合物が候補として浮かび上がった。実際、休眠状態においてautophagyは亢進しており、Atg7のノックダウンによっても細胞生存は阻害された。さらに、培養液中からのglutamine除去においても休眠状態における細胞生存は阻害された。以上の結果からautophagy、glutamine要求性はIGF2, Insulinが媒介する休眠状態において細胞生存に必要である可能性が示唆された。これらの結果を踏まえて、骨肉腫担癌マウスを用いて既存の化学療法とクロロキン、Lアスパラギナーゼの併用療法の効果を検証したところ、有意に腫瘍を縮小する結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
IGF2、Insulinが骨肉腫細胞に休眠状態を誘導する培養条件の確立、細胞周期停止の確認は前年度までに施行したが、今年度、新たにその分子機構として細胞周期を進行させるcyclinのタンパクレベルでの低下、及びPI3K-AKTシグナル経路の不活化が解明された。さらに、休眠状態において細胞が生存するためにautophagyの亢進、glutamineの要求性が明らかとなった。即ち、治療抵抗性に繋がる休眠状態を克服する手段の手掛かりが得られた。一方で、休眠状態をモニターできるバイオマーカーの発見、in vivoでIGF2が上昇する機構、治療抵抗性に繋がるDNA障害の回避の詳しい機構の解明は未だなされておらず現在解析を進めている。
「休眠状態を克服する手法の解明」;ここまでの研究で、autophagy、glutamine代謝経路がIGF2により誘導される休眠状態を克服する標的となる可能性が示唆されたが、今後はさらなる克服法の確立を目指す。具体的には、ハイスループットでスクリーニングできる系を構築し、既存薬剤1600種類を用いた、休眠状態を克服する薬剤の取得を目指す。得られたヒット化合物は担癌マウスへの投与により効果検証を行う。現時点では、DNA傷害を回避する機構、細胞周期停止の分子機構を明らかではないが、ヒット化合物の作用機序からこれらの機構解明に迫りたい。「休眠状態をモニターできるバイオマーカーの解明」;休眠状態をin vitro、in vivoでモニターできるバイオマーカーの取得を目指す。網羅的遺伝子解析や活性化される細胞内シグナル伝達経路のスクリーニングを通して、休眠に入った細胞に特異的にみられる分子発現、シグナルの活性化を捉える。治療に伴って上昇するIGF2はその上昇を誘導する分子と伴に、休眠状態のバイオマーカーとしても有用である可能性がある。in vivoでIGF2が上昇する機構の解明もin vitroの条件検討によって進める。「ヒト骨肉腫検体を用いた検証」;得られた知見がヒト骨肉腫においても存在するか普遍性を検討する。遺伝子解析、免疫染色でヒト骨肉腫においても休眠状態の細胞が存在し、同定できるか、バイオマーカーの有用性も合わせて検討する。文献から利用できるヒト骨肉腫の遺伝子プロファイルや購入可能な組織アレイを活用し解析の幅を広げる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (3件)
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