研究課題/領域番号 |
24510179
|
研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
柳澤 淳一 滋賀県立大学, 工学部, 教授 (60239803)
|
キーワード | ナノ多孔構造 / ナノ微細構造 / ゲルマニウム / ガリウムアンチモン / インジウムアンチモン / 酸化チタン / 光触媒 |
研究概要 |
単結晶ゲルマニウム(Ge)表面に、比表面積が最も大きなナノ多孔構造を形成するための作製条件について、あらためて広範囲に系統的な検討を行なった。また、ナノ多孔構造が形成されるメカニズムについても考察を加えるために、Ge以外の材料(ガリウムアンチモン(GaSb)、インジウムアンチモン(InSb))表面への高エネルギーガリウム(Ga)イオンの集束イオンビーム(FIB)照射効果を調べた。 FIB照射量を3x10^16、7x10^16、3x10^17 cm^-2と変化させるに従い、形成されるナノ多孔構造の網目は大きくなり、ネットワークを構成する網の1本ごとの線が太くなることが確認できた。また、同じイオン照射量でも、FIB照射におけるイオン走査速度(各ピクセルにおけるビーム滞在時間に対応)が遅くなるに従って網目構造が緻密になることが確認できた。FIBのイオン電流が250 pAの場合と1.2 nAの場合とでは、同じ走査速度と照射量で比較した場合、得られる構造に変化がないことも確認された。これらの結果から、Ge単結晶表面に形成されるナノ多孔構造の形状がFIB照射条件により精密に制御できることが示された。 Ge、GaSb、InSb単結晶表面に同一のFIB照射条件でイオン照射を行なった表面の比較を行なった。GaSb表面にはGeと同様のナノ多孔構造が形成されたが、イオン照射条件による網目構造の変化は観測されなかった。また、InSb表面ではナノ多孔構造は形成されず、代わりに剣山のようなナノサイズの突起構造が形成されることが新たに見出された。Ge表面に形成されるナノ多孔構造形成メカニズムを考える上で重要な知見が得られたと思われるので、詳細を次年度の課題としたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究成果で、ナノ多孔構造の表面全面にわたりチタン(Ti)で3次元的にコーティングすることに成功したことを受け、本年度はあらためてTiコーティング前のGe表面のナノ多孔構造そのものの形状の精密な制御の可能性について検討を行なった。これまでとびとびのFIB照射条件でしか行なわれてこなかった条件を、イオン照射量、照射速度、イオン電流について系統的に変化させてイオン照射を行なった結果、ナノ構造の形成に対して前述の研究実績の概要で述べたような系統的な結果が得られることが示された。表面のTi修飾とその酸化による光触媒の形成を行なう上で、最適な構造を作製するために必要なイオン照射条件の制御が、これにより可能となった。 ナノ多孔構造がGe以外の材料でも形成されるかを確認するため、これまで様々なイオン照射条件下での微細構造形成の報告のあったGaSbとInSbについて、今回のGeと同じイオン照射条件でFIB照射を行なった。同じイオン照射条件下で形成された表面構造の比較はこれまでに報告がなく、今回、初めて比較検討を行なうことができた。その結果、従来のイオン照射条件で報告されている形状とは異なるナノ構造が形成されることが見出されたが、これらの結果はGe表面にナノ多孔構造が形成されるメカニズムを考える上で大きなヒントとなることが期待できる。新たに見出されたこれらの現象については、来年度の新たな課題とすることが有用であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
単結晶Ge表面に形成した、比表面積が大きなナノ多孔構造の表面全面をTiでコーティングする技術が確立でき、また、ナノ多孔構造の形状を精密に制御することが可能となったことで、比表面積の大きな構造への光触媒機能の付与の可能性を示すことができたため、今後はコーティングしたTiを酸化させ、実際に光触媒機能を持たせることを目指して研究を進める。 光触媒機能を持つのは、二酸化チタンの中でも低温で安定なアナターゼ型であることが知られている。プラズマプロセスで形成したTi薄膜をアナターゼ型に酸化させる方法について、基板を高温にする必要がない、酸素プラズマからの酸素ラジカルを用いた酸化方法をまず検討する。プラズマを形成するために導入するRFパワー、酸素ガス流量、プラズマ照射時間などのパラメータにより、異なる酸化条件を実現させる。形成された酸化チタン膜の光触媒効果は、X線結晶回折による結晶構造解析や、紫外線照射による親・疎水性変化に対応する接触角変化での評価を試みる。最適な酸化条件が明らかになった後、Geのナノ多孔構造にコーティングしたTiに適用し、平坦な基板表面の場合との光触媒効果の効率などの比較を試みる。 加えて、今回の実験で明らかになったGaSbやInSbへのイオン照射によるナノ構造の形成については、イオン照射条件と得られる表面形状との関係を系統的に明らかにし、ナノ構造形成のメカニズムについても知見を得たい。
|