研究課題/領域番号 |
24520172
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
渋谷 哲也 東京国際大学, 人間社会学部, 准教授 (90438789)
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キーワード | ドイツ映画 / 小説映画化 |
研究概要 |
平成25年度は、これまでの研究成果を学会発表および複数の論文によって公開したことが第一の成果である。まず学会発表は9月28日開催の日本独文学会で、68年世代の作家を現代において再検証するシンポジウムを開催し、シンポ全体の司会およびライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの現代における再評価についての報告を担当した。60-80年代という政治の季節から冷戦終結までの過渡期の作家活動を他の同世代の作家との比較で論じる機会として意義深い討論も行うことができた。このシンポの内容は平成26年度中に日本独文学会叢書として公刊する予定である。 研究論文は、ストローブ=ユイレ映画における文学テクストの脚色の手法について、およびライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画における同テーマでそれぞれ論文を執筆した。これは本研究の中核をなすテーマを扱ったものであり、とりわけ文学的テクストを映像や音声に対し独立した要素といて考察し、そこに映画表現の多層性と現実社会や歴史とのコンテクスト化の可能性について、包括的な考察と具体的な作品分析の双方を盛り込めた。これまで映画研究と文学研究とでそれぞれ異なる取り扱われ方をしてきた映画脚色について、新たな視点を導入しようとする試みとして、26年度も継続して研究発表を続けてゆく予定である。 第二の成果は、ドイツの映画監督レナーテ・ザミを始めて日本に招聘し、彼女の主要作品をほぼ全て字幕付きで上映、そして多くの対談や討論の機会をもったことである。商業上映や映画祭上映が見込めないマイナーな作家だが、ストローブ=ユイレと比較しうる独自の手法で言語と映像との関連性及びその政治的コンテクストを考察するにも重要な作品を生み出している。それを日本に紹介し、詳細に考察できる機会を得たことは大きな成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は研究成果をできる限り公表することを第一の目的としていたため、論文3本の執筆および1度の学会発表、また複数回の講演やイベントトークを行ったことで順調に研究成果を上げることができた。ただ研究を進める中で、26年度にストローブ=ユイレについて単著を出版するという当初の計画は見直しの必要があると考えている。個々の作品についての考察をこれからもっと掘り下げ、理論的考察をさらに進める必要がある。そこで26年度は研究論文および研究発表や講演で、ストローブ=ユイレの個別作品を中心にした研究を重ねてゆくことで、単行本として成果を公刊するのを焦らずに次年度にすべきではないかと考える。映画史的にも極めて重要な映画作家であるため、性急な成果発表は控えるべきという判断もある。 関連映画作家の招聘と上映は着実な成果を上げている。アテネ・フランセ文化センターと行った計7回の上映ではのべ400名の入場者を数え、ザミとの討論会も40名近くの参加者が集まった。ザミ監督についての論考は26年度に文字化する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は主に、ストローブ=ユイレを初めとしたニュージャーマンシネマの映画作品の上映と講演・討論を連続して行い、その成果を順次文章化することで、まとまった研究成果として発表する準備を行う。前項で述べたように、26年度中にストローブ=ユイレの研究本の準備作業は継続するが、今年度はむしろ中間報告的にこれまで公表してきたドイツ映画についての幅広い論考を一冊の単著として出版することを優先したい。次年度以降に改めてストローブ=ユイレについての単著出版を考えたい。
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