研究課題/領域番号 |
24520353
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 佳樹 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (90240134)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 独文学 / 映画 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、冒険作家カール・マイの小説の映画化作品を中心に研究を進めた。 ドイツでは無声映画時代から西部劇が製作されていたが、とりわけ1960年代に西ドイツでマイの小説にもとづく西部劇が次々に製作され、大ヒットとなった。アパッチ族の若き酋長ヴィネトゥとオールド・シャターハンドなどのドイツ人との友情を軸にしたこのマイ西部劇シリーズにおいては、インディアンが、自分たちを絶滅に追いこんでいる〈悪い白人〉が犯した罪を、インディアンに協力する〈よい白人〉への信頼ゆえに許せるかどうかが焦点となっている。ホロコーストに対する戦後西ドイツの〈過去の克服〉の文脈のなかでみれば、この映画の主題が国民アイデンティティの修復作業と深くかかわっていたことがわかる。 西ドイツに少し遅れて、東ドイツでも、1960年代半ばから、デーファ・スタジオによる西部劇シリーズが製作され、やはり破格のヒットとなった。〈インディアン映画〉と呼ばれる東ドイツの西部劇は、ハリウッド製西部劇の基本パースペクティヴを反転させて、インディアンの視点を中心に据え、白人の帝国主義に対する赤い人々(=インディアン)の抵抗を、アメリカ資本主義に対する共産主義陣営の抵抗と重ねあわせることを目論んでいた。〈インディアン映画〉はカール・マイとは別の世界像を目指してはいたものの、その影響を完全に逃れることはできなかった。東西ドイツでほぼ時を同じくして起こったこの合わせ鏡のような現象の特色を、再統一後に製作されて1000万人を超える観客を動員したドイツ製西部劇のパロディ映画『マニトの靴』(2001)をも視野に収めながら詳細に分析するとともに、西部劇というジャンルを換骨奪胎しようとする試みが孕んでいた矛盾や、東西両西部劇のインディアン・ヒーローの交換可能性などについて考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度までの研究で、映画に対するトーマス・マンの態度というテーマについては一定の結論を得ることができた。平成26年度はカール・マイの小説の映画化とドイツにおける西部劇というテーマを扱い、『文化の解読(14)―文化と公共性』(大阪大学言語文化研究科、2014年)に寄稿した論文「〈ヴィネトゥ〉という名のファンタジー―カール・マイとドイツ製西部劇」、日本映画学会での講演「ジャンルとイデオロギー―東西ドイツの西部劇」(2014年6月21日、国士舘大学)、『映画とイデオロギー』(加藤幹郎監修・杉野健太郎編)に寄稿した論文「ドイツにおける西部劇の変遷―ジャンルとイデオロギー」というかたちでその成果を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、スイスの劇作家フリードリヒ・デュレンマットなどほかの作家と映画との関係を考察する予定である。また、本研究は、文学作品の映画化という問題も射程に収めている。文学作品の映画化の歴史は映画史の重要な一面を占めるといわれるが、この点についてもさらに研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文を寄稿した『映画とイデオロギー』(ミネルヴァ書房)の出版が、当初予定の2014年12月から遅れ、2015年4月になった。この研究成果を近接分野の研究者に送り、本研究のフィードバックを行なうために、必要な経費を平成27年に残した。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進捗状況は順調であり、次年度使用額が生じたのは上記の理由による。『映画とイデオロギー』(ミネルヴァ書房)が出版され手元に届きしだい、近接分野の研究者に送り、本研究のフィードバックを行なう。
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