本研究においては憲法理論の前提である公私二元論を再検討し、我が国の社会実態に即した「公-共-私」の枠組みで帰納法的に再構成することを目的にしている。このような問題意識は公私二元論を所与のものと認識している公法研究者において共有されていないが、政治学や社会学、まちづくり、コミュニティ政策、教育学などでは、「公=国家」と「私=個人」には還元できない「共=コミュニティ」の重要性を指摘する研究が存在する。その成果も活用しつつ、本研究では共の領域の存在とその共同管理=ガバナンスの統治機構における役割と共の領域を持続的に管理する仕組みについて研究した。あわせて、共の領域を持続可能にする学び=ESD(持続可能な開発のための教育)についても研究した。 成果は以下の2点にまとめられる。 ① 統治機構における共の領域の意義 憲法のデザインする統治機構の間隙を、現実には自治会や町内会、財産区など共の組織が埋めることで、市民のニーズを満たしているケースが見られる。しかしながら、これらの組織は地域ごとの多様性のゆえに現状把握が難しい。また機能していない地域もある。しかしながら、国や地方公共団体以外の統治組織の存在は確認することができた。 ② 共の領域の持続的管理とESD 共の領域は地域ごとで「資源・エネルギー・労働の共同管理」と「共同管理に参画する者へアイデンティティの付与」を行い、持続可能な社会の実現に資する。「資源・エネルギー・労働」が市場原理に委ねられた結果、個別化された個人はアイデンティティを国家や私事に求める傾向にある。共の領域の持続的管理のためにはESDのような学びが必要となってくる。 今後も人口減少社会の進行における共の領域の再評価を目指し、社会的共通資本の持続的管理の視点を盛り込みながら、憲法学の公私二元論を、特に人権論に焦点をあてて研究を継続してゆく。
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