本研究は日本企業のオフショアリングと日本の雇用構造の関係を理論と実証の両面で検証を試みたものである。近年オフショアリングを財の生産工程の分割ではなくtask(業務やサービス)の海外移転としてとらえる一連のモデルが存在する。実際にオフショアされるのは生産の一部の工程ではあるが,その工程はマネージャー,研究者,技術者,生産労働者,一般事務労働者といったように様々な業務をこなす人々によって構成されている。これらのモデルではそれぞれの業務の異なる熟練度の組み合わせによって各国の比較優位が決定される。たとえば,コンピュータによって代替されやすい手仕事でルーティンワーク化された業務は最もアウトソースされやすことが労働経済学の分野で知られている。この考えに従えば海外に移転されやすいtaskは途上国の労働者に取って代わりやすいルーティン化された業務であり,生産工程というカテゴリーではないことになる。 本研究ではこのtaskを基本としたモデルを考慮し,オフショアする国(本研究では日本)の雇用構造との関係を実証的に検証した。モデルでは各産業の熟練度を職種のシェアで測り,従来の熟練・未熟練労働比率ではとらえることが難しかった産業間の特徴を考察した。1990年から2010年までの国勢調査から得られた職業別データと日本の産業別対外直接投資データを基に雇用構造の変化と対外直接投資の関係を明らかにしている。日本の職業別データによって各産業の業務の組み合わせを考察し,オフショアリング(対外直接投資で代用)されやすい産業の雇用構造を分析した。
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