本年度は研究計画に基づき、まずは1930年代の米国における会計規制体制の確立過程に関する研究を行い、その研究成果の一部を、学術論文(大石桂一「米国証券取引委員会の創設期における会計規制の方向性」『経済学研究』第81巻第4号、271-294ページ)として公表した。 当該論文では、なぜ1930年代の米国において会計プロフェッションによる会計基準設定という体制が確立されたのかを明らかにすべく、証券取引委員会(SEC)が創設された1934年から、会計連続通帳(ASR)第4号の公表によってプライベート・セクターに会計基準設定が事実上「アウトソース」された1938年までの間、SECがどのような方針で会計規制に取り組んだのかを検討した。そこで明らかになったのは、SECは、自らが会計基準を設定するためのリソース、とりわけ専門的能力を持った人材が不足していたため、民間に基準設定をアウトソースしたということである。しかも、それは単なる「委任」や「権限委譲」ではなく、監督された自主規制という考えのもと、エンフォースメント(これはルールの承認という意味でのエンドースメントと、その執行という意味での狭義のエンフォースメントを含んでいる)を通じてSECが民間の基準設定をコントロールする制度を構築したのである。 次いで、本年度までの研究成果をふまえ、研究全体の総括を行った。すなわち、1930年代の米国において成立した「会計基準設定のアウトソース」という体制をベンチマークとして、他の時代や国・地域における会計規制の相違や変化を析出し、その理由を明らかにした。その成果は、単著(大石桂一『会計規制の研究』中央経済社)として、近日中に刊行される予定である。
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