本研究の課題は「ボードリヤールの社会理論の再構成、及びその受容と影響についての批判的検討」である。研究の具体的な取り組みの概要は以下のとおりである。(1)ボードリヤールの未邦訳を含む文献(一次文献)を精査して、(2)研究の手薄であった「悪」「不可能な交換」といった諸概念を明確化し、(3)ボードリヤールの社会理論を情報社会論的な視点から理論的に再構成する。さらに、(4)ボードリヤールの社会理論の多方面での影響を整理して、その社会的、文化的意味を明らかにし考察する。なお、(1)(2)(3)の研究では、フランス思想、文化人類学、メディア論といった関連する分野の諸研究(関連文献)とボードリヤールの社会理論との関係性を明らかにするとともに、ボードリヤールに関する先行研究(二次文献)を吟味することも構想している。 平成26年度は研究構想のうち、(1)(2)(3)(4)について網羅的に取り組んできた。具体的には、これまでどおり、ボードリヤールの二次文献、関連文献を収集し、(1)(2)(3)については、文献をさらに深く精査するとともに、諸概念の明確化に取り組み、ボードリヤールの社会理論を情報社会論として全体的な構図を描くことにある程度は成功したと思われる。これらについては学会発表、論文として研究成果をまとめた。他方、(4)については、文献や資料を精査するといった研究計画を十分に消化できたとはいえず、学会発表、論文として成果をまとめることができなかった。こうしたこともあり、本研究全体の成果をまとめた著書の執筆という本研究の最終目標は果たせなかった。それでも、(4)の取り組みをとおして、今後の研究の方向性、具体的な取り組みがはっきりしたことは収穫であった。
|