研究概要 |
仮名・漢字表記語を読むとき,その処理の初期段階において音韻情報は自動的に活性化されるのだろうか。仮名表記語の読みにおいて,音韻活性化が容易に生じることを示す証拠は多数存在することから(e.g., Chen et al., 2007; Feldman & Turvey, 1980; Kimura, 1984; 斉藤, 1981),本研究では,漢字表記語の読みにおける自動的音韻活性化の有無に関する検討を行った。具体的には,漢字二字熟語ペアを使って,瞬間提示されたプライムを伴う語彙判断課題において,同音語プライミング効果を観察可能かどうか検討した。実験では,漢字二字熟語の同音語ペアに対して有意な同音語プライミング効果が観察された。Chen et al. (2007)が同音語プライミング効果の検出に失敗した同音語ペアを使った場合にも,有意な同音語プライミング効果が観察された。これらの結果から,漢字表記語の読みの初期段階においても自動的な音韻活性化が生じていることが確認された。 また,Hino, Miyamura & Lupker (2011)と同様の刺激を使って,仮名・漢字表記語の音韻-形態対応の一貫性の程度の比較を試みたところ,漢字表記語の音韻-形態対応の一貫性は,仮名表記語と比較して著しく低いことが明らかとなった。この結果から,漢字表記語の読みの課題において音韻活性化による効果を観察しにくい場合があるのは,音韻情報が活性化されにくいためではなく,活性化された音韻情報が形態情報処理のための手がかりとして有効に機能しにくい場合があるためではないかと推測される。今後,この新たな仮説を検証するための実験を実施する予定である。
|