研究課題/領域番号 |
24530924
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
日野 泰志 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00386567)
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キーワード | 漢字表記語 / 自動的音韻活性化 / 同音語プライミング効果 / 音韻-形態対応の一貫性効果 |
研究概要 |
平成24年度の研究において,漢字熟語ペアを使った語彙判断(語-非語判断)課題において,マスク下の同音語プライミング効果を検出した(楠瀬・中山・日野, 2013)。一方,Chen, Yamauchi, Tamaoka & Vaid (2007)は,類似の課題を使って漢字熟語ペアに対する同音語プライミング効果の検出に失敗している。そこで,平成25年度は,この二つの研究のいかなる違いが異なる結果を生じさせたのかを明らかにするための検討を進めた。具体的には,プライム刺激の提示方法の違い,刺激セットの違い,刺激セット全体に占める同音語ペアの割合の違いという三つの変数に注目し,これらの変数を操作した実験を進めたところ,いずれの実験においても有意な同音語プライミング効果が観察された。この結果は,Chen et al.による同音語プライミング効果の検出の失敗は,第二種の過誤による可能性が高く,漢字表記語を読む際にも音韻情報は自動的に活性化されることをより明確に示すものであった。 また,語の音韻-形態間の対応関係の一貫性に注目すると,仮名表記語に比べて漢字表記語は,その一貫性が著しく低かったことから,平成25年度には,この音韻-形態対応の一貫性がどのような状況下で大きな効果を示すのかを明らかにするための一連の実験を実施した。実験は,現在進行中であるがこれまでの結果によれば,視覚刺激が容易に利用可能な状況下では,一貫性効果は観察されないが,聴覚刺激による課題や視覚刺激の利用が制限された状況下では,一貫性効果が観察されることが明らかとなった。 さらに,漢字熟語の形態-音韻対応の一貫性効果が,実は漢字の音訓による効果である可能性が指摘されていたことから,この問題についても検討した結果,一貫性効果は,漢字の音訓による効果ではないことが明らかとなった(井田・吉原・薛・楠瀬・佐藤・日野, 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度中の研究から漢字表記語を読む際にも,音韻情報の自動的活性化は生じている可能性があることが明らかとなった。そこで,平成25年度の研究では,平成24年度中の成果を発表した研究(楠瀬他, 2013)と漢字表記語に対して自動的音韻活性化は生じないと提案するChen et al. (2007)の研究とを対比し,刺激セットの性質の違いや実験手続きの違いの問題などについてさらなる検討を進めた。その結果,いずれの条件においても有意な同音語プライミング効果が検出されてたことから,平成24年度の成果をさらに確実なものとすることができた。 次に,平成24年度の研究で漢字表記語は仮名表記語と比較して,その音韻-形態対応の一貫性が著しく低いことが明らかとなった。この漢字表記語の特徴が語の認識においてどのような効果を持つのかを検討するための複数の実験から,刺激が音声提示された場合,及び視覚提示された刺激を利用しにくい場合には,音韻-形態対応の一貫性が低い語を認識しにくくなることが明らかとなった。 さらに,音読課題で報告されている漢字熟語の形態-音韻対応の一貫性効果について,この効果が形態-音韻対応の一貫性によるのではなく,実は漢字の音訓による効果である可能性が指摘されている(e.g., Wydell, 1998)。そこで,この問題をさらに検討するための音読実験を行ったところ,漢字熟語の音読に,形態-音韻対応の一貫性による効果は検出されたが,漢字の音訓による効果は検出されなかった。この結果から,漢字熟語の音読において観察される一貫性効果は,形態-音韻対応の一貫性による効果であり,漢字の音訓による効果ではないことが明らかとなった(井田他, 2014)。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については,漢字表記語の同音語プライミング効果に注目した音韻活性化に関する問題を扱った研究と漢字熟語の音韻-形態対応の一貫性効果に関する問題についての研究を完了し,それぞれの研究を論文にまとめて発表する予定である。 また,これらの研究成果とすでに発表済みの漢字熟語の同音語効果に関する研究結果(Hino, Kusunose, Lupker & Jared, 2013)を踏まえると,仮名表記語ばかりでなく漢字表記語を読む際にも,音韻情報が自動的に活性化されるようである。しかし,音韻情報が活性化するからといって,意味符号化の際に,その音韻情報を介した意味符号化がなされるとは限らない。事実,Hino, Lupker & Tayler (2012)は,音韻活性化がほぼ確実に生じると思われるカタカナ語を読むとき,その意味情報は形態・書字情報から直接計算され,音韻情報に媒介された意味符号化は生じないことを示すデータを報告している。そこで,平成26年度以降は,漢字表記語を読む際の意味符号化経路の問題に関する検討にも取り掛かる。Hino et al.のカタカナ語を使った研究と同様の操作を漢字熟語を使って実現するには,関連性評定などデータ収集が必要である。そこで,平成26年度からこれらのデータ収集も開始する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度,国際学会での発表のための旅費として使用を予定していた金額を使用しなかったことから,繰り越し金が生じた。 今年度は,実験参加者への謝礼,研究補助者へのアルバイト代,国際学会での研究発表のための旅費に加えて,Microsoft社のWindows XPサポート終了に伴い,実験室のPC等の装置を買い替える必要が生じていることから,実験室の装置買い替えのための費用の一部として使用したい。
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