研究課題
基盤研究(C)
(1)理論研究大学教育における多様な学習成果の評価の方法が、〈間接評価-直接評価〉と〈心理測定学的パラダイム-オルターナティヴ・アセスメントのパラダイム〉という2軸によって4つのタイプに整理できることを示し、パフォーマンス評価の内部に、標準化を志向する方向性(CLAなど)と、標準化に抗しつつ各大学・部局の固有性と共通性の調停を図ろうとする方向性(AAC&UのVALUEプロジェクトなど)が存在していることを明らかにした。また、ルーブリックの次元(規準)とレベルを構成するロジックをさぐるために、VALUEルーブリックの分析を行い、レベルの設定のしかたには、条件型、数量詞型、動詞型、形容詞・副詞型などのタイプが存在することを明らかにした。(2)実践研究①藍野大学理学療法学科において「考えるOSCE-R」を開発・実施し、学生の学習に対するインパクトを、OSCE得点の変化、質問紙調査、インタビュー等のデータを用いて分析した。その結果、OSCE-Rが単にパフォーマンス(実技)を向上させるだけでなく、理学療法過程についての思考を促していることが確認された。②新潟大学歯学部の初年次教育科目「大学学習法」においてレポート評価のためのルーブリック(「十字モデル・ルーブリック」)を開発し、一般化可能性理論を用いて、その評価の信頼性について検討した。信頼性係数は十分といえるものではなかったが、ルーブリックを改善するための示唆(レベルの数を増やすこと、レポートの質にそった記述語にすること)が得られた。③京都大学文学部の哲学系専門基礎科目において、コンセプトマップが深い概念理解・概念形成を促す学習ツールとなりうるか、またそれを評価ツールとしても利用しうるかを検討するために、授業デザイン、コンセプトマップ用のルーブリック開発、授業者・評価者に対するインタビュー等を行った。結果は現在分析中である。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画では、2012年度は、理学療法教育分野におけるOSCE-R v2(=「考えるOSCE-R」)の開発・実施と、OSCE-R v2の学習へのインパクトの分析、を予定していた。これに対し、実際には、上記の計画を実施するとともに、2013年度に予定していた研究課題(「深い学習を促すパフォーマンス評価」を支える理論の構築と、他領域への応用可能性の検討)にまで踏み込むことができた。具体的には、理論研究において2軸による学習評価の4タイプの類型化やそれらの関係の分析を行うことができ、また、実践研究についても、初年次教育科目におけるレポート評価のためのルーブリック開発やその信頼性の検討、コンセプトマップを用いた評価の試行などを進めることができた。以上から、当初の計画以上に進展している、と判断した。
(a) OSCE-R v2 の開発・実施と、その学習へのインパクトの分析引き続き、OSCE-R v2 の開発・実施と学習へのインパクトの分析を行う。OSCE-R v2は、第1サイクル(2009年度入学生対象、2012年度末まで)と第2サイクル(2010年度入学生対象、2013年度末まで)の2サイクルにより年次進行で追跡調査を進めている。第1サイクルについては在学中のすべてのデータを収集ずみであり、今後はデータ分析に集中する。第2サイクルについては 2013年度中にすべてのデータ収集を完了させる。なお、パフォーマンス課題については2012年度までで開発が終了したので、2013年度以降は、それに対応する評価表の作成を進める。(b) 「深い学習を促すパフォーマンス評価」を支える理論の構築と、他領域への応用可能性の検討他領域のフィールドとして、主に以下の3つのフィールドでの研究を継続、発展させる。①新潟大学歯学部の初年次教育科目「大学学習法」におけるレポート評価:改訂した新しいルーブリックでの評価結果を分析し、2012年度分との比較によってルーブリック改善の効果を検討する。②新潟大学歯学部の専門科目でのPBLテュートリアルについてのパフォーマンス評価:2012年度より共同研究を開始しており、2013年度以降、口腔生命福祉学科学生を対象に本格実施する。こちらも年次進行で追跡調査を行う予定である。③京都大学文学部の哲学系専門基礎科目でのコンセプトマップを使った評価:2012年度に開発したコンセプトマップ用のルーブリックを用いて前・後期の授業で授業内容理解の評価を行い、成績評価としての有効性を検討する。「深い学習を促すパフォーマンス評価」を支える理論の構築については、本科研での研究成果もふまえながら、松下編著による単行本『ディープ・アクティブラーニング』を2014年度中に刊行する。
現在の残額総計は、3,515,474円である(間接経費を含む)。このうち、次年度は1,555,000円を使用する。内訳は以下のとおり。・物品費:125,000円(書籍費、OSCE-R v2の実施に必要な消耗品費)・旅費:650,000円(成果発表旅費300,000円、調査・研究旅費350,000円)・人件費・謝金:450,000円(研究補助(5×30 人・日)150,000円、専門的知識の提供150,000円、英文校閲150,000円)
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件) 図書 (3件)
大学教育学会誌
巻: 35-1 ページ: 107-115
巻: 34-2 ページ: 86-89
京都大学高等教育研究
巻: 18 ページ: 75-114