研究課題/領域番号 |
24531090
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
久保 良宏 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80344539)
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研究分担者 |
黒谷 和志 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40360961)
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キーワード | 批判的思考 / 批判的教育学 / 対話 / 数学的コミュニケーション / 数学的リテラシー / 批判的数学教育 / 社会的構成主義 / パウロ・フレイレ |
研究概要 |
本研究は、次世代を生きる子どもたちにとって必要な力として「批判的思考」を捉え、これを数学的リテラシーなどの先行研究を踏まえて、数学教育において具体化することにある。「批判的思考」の捉え方は多様であるが、「対話」と「志向性」が重要であり、また教科教育で具体化する上では、教育学における“批判的思考”と“批判的教育学”の両面から検討する必要があると考えた。前者は論理の組み立てなどに目が向けられるが、後者は社会の構造を理性的に検討することにまで視野に入れた概念である。 本年度は特に後者に着目し、これらを踏まえて数学教育で「批判的思考」を具体化する上では、目標概念と方法概念の両面から検討する必要があることを明らかにした。前者では人間形成的、文化的、実用的の3つの側面から、また後者では「a.社会の問題の考察に数学を批判的に用いる」「b.算数・数学の問題解決過程を批判的にみる」「c.数学そのものを批判的に捉える」の3点から検討した。なお「c」についてはヤブロンカなどの批判的数学教育があり、ここにはアーネストの社会的構成主義の立場があることを明らかにした。 また“批判的教育学”の検討では、教育方法学の論考からフレイレへの着目が重要であり、ここでは「対話」の重要性がより一層示唆された。フレイレの「対話」の概念には、筆者の「数学的コミュニケーション」研究と共通する部分があり、本年度は特に批判的思考における「対話」の概念と「コミュニケーション」との関係についての考察から、これまでの「数学的コミュニケーション」研究を捉えなおした。ここでは、これまでの数学的コミュニケーション研究では算数・数学指導における「共有」に着目されていたが、「批判的思考」から「数学的コミュニケーション」を捉えると、考え方の発散と収束がより一層重要であり、これはフレイレの「矛盾」と「統合」とに言い換えられることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、数学教育において「批判的思考」を具体化することを目的としているが、その上で、文献研究、調査研究、事例的研究を主な手法としている。 文献研究では、本年度は、教育学や心理学の文献解釈に加え、数学および数学教育に関する哲学的解釈にも目を向けた(アーネストなど)。これにより「研究実績の概要」でも述べた「C.数学そのものを批判的に捉える」についての検討が進展するとともに、「批判的思考」を数学教育で具体化するためのさらなる観点を見いだすことができた。例えば、「可謬的に捉える態度」に焦点をあてて算数・数学の教材開発に取り組むこともその1つである。ここでは具体的に、「数学的表現を批判的にみる活動」、「命題の真偽の考察において反例を挙げる活動」などが考えられ、今年度はこのような視点から、研究協力者とともに教材開発についての検討がなされた。 また、調査研究については「数学を批判的にみる」ことについての中学生を対象とした調査を実施し、研究協力者を中心に算数・数学教育研究の全国大会においてその成果を発表するにいたった。なお、教師調査の実施も検討していたが、予算の関係もあり、筆者が分担者として加わっている「数学的判断力」および「統計教育」の科研の調査の中に本科研で開発した質問紙の質問内容を含める形で実施した。 事例的研究については、授業実践は次年度となるが、前述のように教材開発の段階までは進んでおり、特に「批判的思考」を「数学的コミュニケーション」研究と関連付けて考察したことは、理論と実践の往還という意味からも価値ある成果であったと捉えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、理論研究と実践研究の往還、また、北海道と東京の二つの地域間による現職教員の研究の交流、そして「批判的思考」を通しての教師教育に目を向けた検討などにも着目している。 理論と実践の往還では、次年度における授業実践とその分析が最大の課題である。なお、授業実践は中学校、高等学校を中心に行う予定である。 また、地域間の交流については、これまで学会や研究会等で両地域の研究協力者の意見交換の場をつくってきたが、それをさらに充実するために、双方が授業を参観する機会をつくっていきたいと考えている。また、こうした授業参観、授業分析に加え、学会発表、研究会発表を通して、教師教育的視座からの検討を考えていく予定である。またこれには、分担者として加わっている科研の調査研究の分析も重要となると考えている。 なお、本研究はさらなる深化と発展を目指し、今後も継続して行っていく予定であるが、そのために、事例的研究と並行して、理論面における新たな着目すべき視点について検討していく必要があると考えている。ここには平成27年度以降の研究について、科研(基盤(B)または(C))の申請内容の検討や、科研の組織づくりも含まれている。 具体的には、現在の科研では、数学教育における「批判的思考」の具体化については、小中高等学校段階の児童・生徒であるが、リテラシーの観点からさらにその考察対象の範囲を広げ、「生涯教育」、「キャリア形成」といった、子どもから成人にいたるまでの“生きる力”、また、よりよい社会を維持、発展させるための“社会人としての力”といった、個人と社会の両面に着目しての考察において、数学教育の中で「批判的思考」について検討することが重要であると考えている。
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