「批判的思考」は,最近話題になっている「21世紀型スキル」などでも強調されており,数学教育においても,創造性との関連から批判的思考の重要性を述べた論考がある。しかしながら,数学教育における「批判的思考」のあり方について,その根本に立ち返り検討したものはあまり見られない。 そこで本科研では,「批判的思考」を教育学や心理学などに着目して文献解釈を行い,これをリテラシーやコミュニケーションに着目して数学教育において理論化し,さらに教師教育にも視点をあてて「批判的思考」を数学教育で具体化することを目指した。 「批判的思考」は単に事象を否定的に捉えることではないと考える。また,「批判的思考」は,西洋思考から受け継がれる論理の規則性や根拠の示し方に重点が置かれる一方で,これを社会にまで拡げた批判的教育学の考え方にも目を向けて検討する必要があると考えられる。 このような点から,数学教育における「批判的思考」は,「対話により課題が明確になり,その解決に向けて情報を精査し,自他の考えを対比しながら他者の立場に立って検討し,公平,平等といった概念を加えながら先入観にとらわれることなく真実により近づいていくもので,そのすべての過程において民主的な社会の構築という目的に対する態度形成が求められるとともに,文脈に適切な背景となる知識やストラテジーが重要な意味を持つ」と捉えた。 特に「批判的思考」は「対話」が重要であるが、この考察からこれまでの「数学的コミュニケーション」研究が再検討された。また、「批判的思考」の具体化では、反例を示す活動が重要な意味を持ち、これが日常的になされることが重要であると考えられる。
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