研究実績の概要 |
【問題と目的】本邦において今日まで未解明である、義務教育後半期(小学校高学年から中学生)にある人工内耳装用児の教室における機能的アウトカム(授業理解や学級活動への参加)と教科学力の解明を主眼とし、その実態と関連要因の同定に向けて分析を行った。【対象】東京医科大学聴覚・人工内耳センターを利用する学齢人工内耳装用児(計100人)であり、その他、対照群として関東地方の公立ろう学校(3校)と公立中学校の通級指導教室を利用する難聴中学生(150人)を調査対象に定めた。【方法】機能的アウトカムについては16項目(4領域:「教師理解」「生徒理解」「情緒的にポジティブ」「情緒的にネガティブ」)から構成される、「日本語版聴覚障害生徒向け学級参加尺度」(齋藤ら,2014)を用いて評価を実施した。加えて人工内耳装用児(100人)に対しては教研式NRT(図書文化社刊)により、教科学力(小学生は国語「読むこと」「書くこと」、中学生では加えて英語「読むこと」)の評価を実施した。【結果】上記の手法で入手した資料を解析の結果、人工内耳装用児の機能的アウトカムは、一方において、教師の発言についての理解を示す「教師理解」では、在籍する学校種(ろう学校、通常学級)で差を認めないものの、他方において、学級における他の生徒の発言の理解を示す「生徒理解」の領域では、ろう学校(聴覚障害特別支援学校)に在籍する児の成績が良好であることが示された。加えて、補聴器を装用する対照群(153人)との比較からは、人工内耳装用児の機能的アウトカムは通級指導教室を利用する児に比して良好であるが、ろう学校に在籍する児との間では成績差が認められなかった。学力については、国語は聴児に比して低位にある児が有意に多く、加えて小学生に比して中学生で低下する傾向が示された。英語についても聴児に比して低位にある子どもの割合が多かった。
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