研究課題/領域番号 |
24540178
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
谷口 説男 九州大学, 基幹教育院, 教授 (70155208)
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キーワード | CR-多様体 / CR-ブラウン運動 / 熱核 / 確率微分幾何 / Malliavin解析 |
研究概要 |
CR多様体上のKohn-Rossiサブラプラシアンの実部(CR-サブラプラシアンと称す.)に付随する拡散過程であるCR-ブラウン運動の大域幾何学的構成について研究を継続して行った.強擬凸CR-多様体上のレヴィ計量から定まるTanaka-Webster接続に基づく平行移動を利用しCR-ブラウン運動の大域的構成へと,これまでの研究で得られえていた接続の局所座標表示を書き換える研究を行った.このために,研究協力者の松本裕行氏(青山学院大学)を訪問して研究討論を行い,Tanaka-Webster複素曲率に関連するユニタリ枠束上の確率幾何に関する知識の整理を行った. また初年度に発見した当初予定にはなかったCR-サブラプラシアンに付随するDirichlet問題の解の確率解析的表示に関連し,CR-サブラシアンの準楕円性を利用すれば,昨年度は見いだせなかったDirichlet問題の解の滑らかさを導き出せることを見出した.さらにこれにより,やはり昨年度局所座標を用いた証明に成功していたCR-サブラプラシアンに付随する熱核の確率解析的表示を利用しパラメトリックスを確率解析的に構成することの可能性(ヘルマンダー型作用素にはKusuoka-Stroockによる先行研究がある)という新たな研究課題を見出した. 初年度に得ていた局所幾何学的考察による成果については,研究集会「確率解析」において発表公表した.CR-ブラウン運動の構成,熱核の存在,Dirichlet問題への応用については,大域幾何学的な構成を達成した後に論文としてまとめ公表する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.大域幾何学的な構成が少し遅れているが,局所的な構成についてはすでに出来上がっている.大域的構成が出来上がれば一挙に成果がまとまる. 2.研究計画当初には気づいていなかったDirichlet問題への応用,さらにそこからさらに派生したパラメトリックス構成の問題など,退化型偏微分方程式への確率幾何学の新たな応用を目指す本研究の新展開方向を見いだせた.
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今後の研究の推進方策 |
1.CR-ブラウン運動の大域幾何学的な構成方法を完成し,構成,熱核の確率解析的表示,Dirichlet問題への応用について論文としてまとめ,公表する. 2.Dirichlet問題への応用から派生したCR-サブラシアンに関するパラメトリックスの確率解析的構成について研究を勧める. 3.熱核の対角線外での短時間極限挙動を,CR-多様体のコントロール距離の言葉で与えるVaradhan型極限定理の研究に着手する.CR-サブラプラシアンに付随するコントロール距離に関する最短経路(測地線)を用いたWiener空間での平行移動を用いたGirsanov変換を利用して,まず,熱核をCR-サブラプラシアンに対するEuler方程式に由来する古典的作用積分により制御される部分と,既に研究を進めている対角線成分に分解する表示式を証明する.その後,Wiener超汎関数の漸近転仮理論を援用して,Varadhan 型の極限定理を導出する.極限定理の導出には,さらに,Kusuoka-Stroock による一般のサブラプラシアンに対する大偏差原理と,複素バンドル束へのCR-ブラウン運動の持ち上げに関連する確率振動積分に対するWiener空間上の複素変数変換理論(研究代表者とP.Malliavinにより確立された)も援用する.
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