研究概要 |
大気又は排出CO2を固体炭酸として貯蔵するCCS技術が注目を浴び,低コストを実現する触媒開発が待望される.しかし安価なCa2+をうまく利用する方法がない.そのような中本研究は,CaCO3を主成分とする貝殻の形成に貝由来Ca2+結合型炭酸脱水酵素(Nacrein)が関与することに着目する.本酵素の性質「低濃度CO2選択的捕捉特異性/高CO2水和触媒能/Ca2+結合能」による貝殻形成に係る仕組みが適切に模倣されれば,CO2を効率的にCaCO3結晶に転換する仕組みを開発することが可能となる.今回高活性酵素変異体と報告者が見出した結晶析出方法を利用して固体炭酸形成反応を高効率化すること,同時にこれまでに明らかとした本酵素の触媒機構から中心的機能を抽出することで,実用性の高い触媒モジュール開発を目的とする研究を行う.本年度までに,報告者は,人工遺伝子合成法を用いて貝由来Ca2+結合能をもつCaBの遺伝子を合成し, 分子生物学的手法を用いてこの遺伝子を有する大腸菌遺伝子大量発現系を構築,またhCAIIループのコード領域にこの遺伝子を挿入,より高いCO2水和活性をもつhCAII-CaBキメラの遺伝子を作成した.一方, hCAIIより4.8倍高機能なhCAIIY7F変異体遺伝子を作成し,これらの発現系をCaB同様に構築,CA阻害剤等を結合させたアフィニティーカラムによってそれぞれ蛋白質調製系を確立,収量>30mg精製標品/1L培養の系を作成し,安定同位体標識CaBを得ることによってその構造情報を取得した.また,提供を受けた中空糸繊維を用いてナノバブルCO2溶液作成を行い,CO2濃度を水酸化バリウム-逆滴定法によって決定する系を確立,分光学的手法による酵素活性測定系を構築した.現在これらすべての系を組み合わせることによって大気中CO2を固体炭酸に転換する手法の効率化を図る.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭酸脱水酵素とCa2+結合能をもつCaBの大量取得系を調製したこと,提供を受けた中空糸繊維を用いてナノバブルCO2溶液作成を行ったこと,CO2濃度を水酸化バリウム-逆滴定法によって決定する系を確立したこと,分光学的手法による酵素活性測定系を構築したことにより,当初計画したモジュールを試作することが可能な段階にに至ったため。
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今後の研究の推進方策 |
期間内にNacreinをより高機能に改変したhCAII-CaBキメラ蛋白質を用いること,又はhCAIIとCaBを併用すること,高活性hCAIIY7F変異体を系に適用することによって作成する選択的CO2捕捉水和触媒・Ca2+濃縮膜に,ナノバブル発生中空子繊維を組み合わせたモジュールの実用性を明らかにする.これによりバイオミメティクス,つまり植物の光合成前段階における炭素源の取込み又は動物の呼吸に係る体液中CO2の運搬・排出,骨/貝殻/卵殻等の固体炭酸の形成といった無機-有機間炭素授受の効率的な仲介を模倣するシステムの構築を行う.既に提出した計画調書通り,培養遺伝子操作試薬・器具,樹脂作成生化学試薬・器具,蛋白質調製関連試薬・器具,安定同位体標識化合物,電顕/X線回折関連品,超遠心・プラズモン消耗品,計算機解析ソフト等を購入する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度配分額の2%(2万円)未満程度の繰越額が発生した.もし繰越不可能であったならば,研究に必要な消耗品(今回ならばナノバブルCO2溶液作成とCO2濃度決定に関するもの)を購入するための予算とするところであるが,今回,繰越を行うことでより適切な使用を図ることが可能と見込まれたため,敢えて繰越を行った.そこでは新年度以降の研究費と合わせ,炭酸脱水酵素と高分子膜・樹脂の使用によるCaCO3沈殿の大量生成系の構築を行う際に必要なカルシウムイオン電極または二酸化炭素膜電極を購入するなどのために熟考してその使用を決定する予定である.
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