研究課題
基盤研究(C)
2月25日から3月10日までにメキシコ(メキシコシティ,オアハカ州,チアパス州)で調査を行い,DNA 解析に必要なムツテンチャタテ属 Trichadenotecnum のサンプルを収集した.また,現地協力者の Garcia Aldrete 博士のコレクションを精査し,DNA 解析にも耐えうる本属のサンプルが蓄積されていることを確認し,日本に持ち帰った.過去に収集したアジア地域のムツテンチャタテ属の分類学的検討を進めた.台湾から15種,マレーシアから13種,タイから50種弱の分布を確認した.いずれの地域もムツテンチャタテ属の分類学的研究はこれまでほとんど行われておらず,これらのサンプルには多くの未記載種が含まれる.本年度は特に台湾とマレーシアのサンプルに基づく記載を行い,これらは25年度中の早い段階で投稿する予定である.アジアのサンプルに基づき,DNA の予備解析を進めた.核の 18S rDNA, Histone 3 およびミトコンドリアの 16S rDNA, 12S rDNA, COI 遺伝子がほぼ全てのサンプルで増幅でき,またこれらの遺伝子に基づく系統解析を行うことで,本属の強固な系統仮説を構築可能であることが示された.ムツテンチャタテ属はアジアでも非常に多様化しており,その系統関係の解明は本属の系統進化,形態進化,生物地理学を行う上で重要な意味を持つことから,25年度中にアジアのサンプルのみに基づく系統解析の結果を論文として投稿することを予定している.主研究課題と関連して,近縁昆虫の分類,系統学的研究や,また他の昆虫を材料とした生物地理学的研究も行った.
2: おおむね順調に進展している
申請段階で記述した平成24年度段階での研究計画をほぼ達成することが出来た.DNA マーカーについては当初予定したいくつかの領域で良好な増幅が得られなかったものの,それ以外の DNA に基づく系統解析の結果,現段階で得られたデータに基づき強固な系統推定が可能であることが示された.メキシコでのフィールドワークも予定通り行うことが出来,さらにメキシコ自治大学に加え,オアハカ州 Universidad de la Sierra Juarez の研究者との共同研究体制を新たに構築することが出来た.この人的ネットワークの構築は,次回のフィールド調査や今後の共同研究において極めて有用なものとなる.
上記の通り研究は予定通り進行しており,研究申請段階から大きな変更は無い.ただし,平成25年に予定していた2回目の現地調査は,申請者とメキシコ側との都合が合わず,26年6-7月に延期することが決まった.現地調査の時期は遅れるものの,解析のプロトコルはほぼ固まっており,現地調査でサンプルを採集後,直ちに解析を行うことで,当初計画の予定内で解析を完了することは十分可能である.25年度は,アジア産サンプルに基づく系統解析論文および台湾,マレーシア,タイそれぞれの地域の分類学的研究論文の出版を予定している.26年度は,2回目のメキシコ調査でサンプルを得,分類学的検討を行うとともに,最終的な系統解析,分岐年代の推定,分散経路の推定を行う.
消耗品費:DNA 解析のための消耗品の購入に充てる.海外旅費:ドレスデンで開催される国際昆虫系統学会議に参加し,研究成果の発表を行う.また研究会議と前後して,ヨーロッパの研究者との研究打合せを行う.25年度内のメキシコでの現地調査を当初は予定していたが,推進方策で記述の通り次年度持ち越しとする.その他:論文投稿料に充てる.
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 備考 (1件)
Insecta matsumurana, new series
巻: 68 ページ: 133-141
PLoS ONE
巻: 7 ページ: e38132
doi:10.1371/journal.pone.0038132
Zookeys
巻: 203 ページ: 27-46
doi: 10.3897/zookeys.203.3138
http://www.hokudai.ac.jp/news/120531_pr_agr.pdf