研究実績の概要 |
旧世界に分布するムツテンチャタテ属 Trichadenotecnum の全ての種群をカバーする72種を用い,5遺伝子マーカー(核18S, Histone 3,ミトコンドリア 16S, 12S, COI)に基づく系統推定を行った.解像度の高い系統樹が得られ,本属の種群分類に関して,以下の諸点が明らかとなった:形態によって認識されてきたほとんど全ての種群が単系統群であること;種群間の分岐関係も,形態による推定と大きく矛盾しないこと;sexpunctatum 種群は medium 種群に内包され,後者は側系統群となること;distinctum 種群,vaughani 種群は majus 種群に内包されること;majus 種群はさらに2つの種群に分割されること. 上記分子系統の結果に基づき,本属で非常に多様化した雄交尾器形態の進化史の推定も行った.その結果,分類や系統推定上特に重視されてきた形質において,並行的な退化や,また進化の逆転現象が認められた. また,多くの未記載種を含む東南アジア産ムツテンチャタテ属の分類学的研究を行った.中国から別族に分類される新属として記載された Cryptopsocus 属が ムツテンチャタテ属のシノニムであることを認め,前者に属する種をムツテンチャタテ属の marginatum 種群に移した.また,本種群に分類される2新種をタイおよびボルネオから記載した.また,分子系統によって2系統に分割された majus 種群の一方の系統を alinguum 種群としてまとめ,本種群に2新種(いずれもタイから)を含む6種を分類した. 旧世界産種で構築した分子系統に,本プロジェクトで収集した北米およびメキシコのサンプルを加えて系統解析を行い,本プロジェクトのメインテーマである旧世界-新世界間の本属の生物地理学的考察を行った.新世界産ムツテンチャタテ属は3系統からなり,そのうち2系統は旧世界系統に内包された.この結果に関して,現在論文を執筆中である.
|