研究課題/領域番号 |
24580036
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
黒田 乃生 筑波大学, 芸術系, 准教授 (40375457)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 世界文化遺産 / 森林 / 石見銀山遺跡とその文化的景観 / 白川郷・五箇山の合掌造り集落 |
研究概要 |
2012年度は中心に植生の変化が大きい近世から近代を対象に「石見銀山遺跡とその文化的景観」において資料調査、ヒアリング調査、現地調査によって景観の特徴をあらわす樹種を特定した。特徴的な樹種としては栗、梅、ナラ類、ツバキ、松、竹が抽出された。明治以降に増加したのは竹林で、重要な樹木であったマツはほぼ消滅した。また、梅は戦後も利用された一方、銀の精錬に必要だった栗は減少した。炭の材料となったツバキは現存するがナラ類はナラ枯れで減少した。 栗材は留木と呼ばれる採鉱の工程に用いられた。19世紀には栃畑、仙之山、石銀地区などに植林された記録があるが、現在はごくわずかにみられるのみである。梅は鉱山病対策や食用に植えたとされ「栃畑」が栗や梅などの植林地であった。戦後も清水谷製錬所跡に植栽しており、梅を利用した加工品も販売していた。炭に用いたのはナラ類全般とツバキで銀山の近隣から調達していた。ツバキ類は現存するが、ナラ類はナラ枯れなどの影響や竹の繁茂によって減少している。銀山には昭和のはじめまで炭焼が継続していた。寛永年間には「垣松」として銀山の周囲に松が植林された。昆布山谷の尾根に垣松と思われる巨大な松の切り株が残されていたが、戦争中に松根油の材料として供出され現存しない。近世の竹山の割合は全体の0.5%にすぎず貴重な資源として扱われていた。昭和中頃まで竹の加工をする家や竹を専門に伐採して出荷する家があった。モウソウチクは漁業用に広島に出荷、ハチクのタケノコは地域外に出荷し貴重な産業であった。その他、集落に近いところでは戦後の食料難で山の木を伐採して焼き、畑にした時期があったという。近世から近代の森林が現在の景観とは大きく異なっていたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は森林植生による世界文化遺産の評価および保全の手法を構築することを目標とし、ひとと森林とのかかわりから文化遺産を再評価し、価値となる植物種とその分布を明らかにすること、文化遺産における森林の現状を植生、管理の面から把握し問題点を明らかにすること、価値と現状を踏まえて森林の目標像を設定し、保全管理計画を提案すること、を目的とした。研究期間内に、①対象とする文化遺産の価値をあらわす植物種と森林の変遷から森林景観を復元し文化遺産の再評価を行う。さらに、②価値となる植生の分布と文化遺産地域の森林管理の現状を把握し問題点を明らかにする。③①と②の結果から森林植生の目標像のタイプ分類とゾーニングを行い、保全管理計画を提案する。2012年度は「石見銀山」で①と②の調査を終了した。当初は2012年度に①について「白川郷」と「石見銀山」を平行して調査を実施する計画だったが、2012年度は石見銀山の世界遺産登録5周年記念のさまざまな行事がかさなって、調査回数も増えたことがあり、結果的に①と②をまとめてひとつの地域で実施することになった。「石見銀山」では文献調査、ヒアリング調査によって、森林の利用が昭和初期から中期にかけて大きく変化したこと、行政資料からも林産物の出荷額の変遷が把握できることがわかり、価値となる樹種の利用の把握については計画よりも成果があがったと評価出来る。一方、利用の内容を数値や空間に置き換える作業は当初の予定よりも遅れており、データ化するための短期雇用を確保できなかったことが遅れの要因のひとつとしてあげることができる。今年度以降は森林の管理計画を作成するためにもデータを空間的に把握する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は「白川郷・五箇山の合掌造り集落」(以下「白川郷」)を中心に調査を実施する予定である。当初の計画では「石見銀山遺跡とその文化的景観」(以下「石見銀山」)と「白川郷」を平行してすすめることになっていたが、2012年度は「石見銀山」を主に調査した。また、2012年度にできなかった植生や資料のデータ化の作業を短期雇用によってすすめる。今年度の予定は6月と7月には白川郷において調査を実施する。「白川郷」の予備調査では草地や里山として利用していた森林が放置されたために拡大し、林縁に分布する合掌造りの建物屋根に影響を与えていることが明らかになった。森林の管理計画が急務となっていることもあり、本年度にヒアリング調査及び植生調査を実施する予定である。8―9月の夏期休業中、1―2月の冬期休業中にデータの整理を実施する。調査結果とデータの分析から11月または3月には日本造園学会のオンライン論文集(査読付き)に投稿する予定である。具体的には、研究計画にもある通り、土地利用の変遷を山絵図(近世)、地形図(明治~現在)、空中写真(1970年代、2000年代)、および環境省の植生数値データ(1970年代、2000年代)を用いて把握する。 また、「白川郷」は、「石見銀山」と同様、資料とヒアリングから指標となる植物種を特定し、残存状況を確認する。また、資料とヒアリングから森林利用の現状を把握する。また、「石見銀山」では補足調査を実施する。行政資料のデータ化とすでに実施したヒアリング調査の内容の確認を行う予定である。上記の調査結果から2014年度は世界文化遺産の森林の管理について「石見銀山」と「白川郷」の具体的な方向性を示し、提言する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度は昨年度の繰越140千円(端数切捨)を追加した直接経費1,500千円のうち、物品費400千円、人件費等200千円、その他400千円は当初の予定通り、繰越金は旅費に充当し540千円の使用を計画している。 旅費の計画としては、「石見銀山遺跡とその文化的景観」は5月に追跡調査、9月に行政資料の調査の合計2回実施する予定である。場所は島根県大田市大森および大田市大田の市役所で地域内の移動は公共交通機関が十分にないためレンタカーを利用する。5月は1名×3日間、7月は3名×4日間の予定である。当初の計画では7日間×2回になっているので人数などに若干の変更がある。「白川郷」の調査は6月と7月の2回実施する。場所は岐阜県白川村荻町および白川村鳩谷に所在する村役場で実施する。6月の調査はプレ調査で1名×4日間の予定である。7月は本調査で3名×5日間、また必要があれば補足調査を実施する。地域内の移動は公共交通機関が十分にないためレンタカーを利用する。当初の計画では7日間×2回になっているので若干の変更がある。当初の計画に加え昨年度の繰り越しを旅費に充当する。 上記の調査に必要な備品、消耗品を購入する。備品はノート型コンピュータ、消耗品はSDカードなどを予定している。 人件費等は調査時に森林の植生調査では森林組合の職員や山林所有者に案内を、森林利用のヒアリングについては森林組合、NPO法人担当者、ガイドの会などに指導・助言を依頼し、使用する予定である。さらに、8―9月の夏期休業中および1月―2月の冬期休業中にデータの整理のために1名を短期雇用する。 その他としては上記のレンタカー代に加え、11月または3月には日本造園学会のオンライン論文集(査読付き)に投稿する予定である。
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