研究課題/領域番号 |
24580036
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
黒田 乃生 筑波大学, 芸術系, 准教授 (40375457)
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キーワード | 石見銀山 / 白川郷 / 森林 / 世界文化遺産 |
研究概要 |
2013年度は「石見銀山遺跡とその文化的景観」での景観調査を継続し、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」ではGISのデータ化を行った。 「石見銀山」では近代以降の森林の変化についてヒアリング調査を実施した。集落周辺の森林は戦後に畑が拡大したこと、桐の実を戦時中の燃料として供出したことなど現在閉山後の森林利用の変化が明らかになった。 「白川郷」では森林管理に向けたゾーニングのためにGISを用いた図を作成した。 近世は山を畑などに利用していた。天保の絵図(『天保年度山地繪圖面冩』 天保14年(1843))、享保の絵図(『享保年度山林繪圖面』 享保12年(1727))、明治21年(1888)の字図から近世から近代にかけて山には草地が点在し、秣や薪などの採取に利用していた。こうした利用の結果、柴山は低木などのブッシュ(薮)で、木山は広葉樹の疎林であったと考えられる。昭和32年(1957)および現在(平成22年(2010年)以降)の航空写真から読み取り、GISを用いて作成したところ、「白川郷」(荻町)周辺の森林において集落周辺の草地、広葉樹林が人工林に変化したことが明らかになった。また、白川村の森林は昭和20年代以降に最も変化したと考えられる。変化の要因は家畜の飼料、肥料、燃料の利用がなくなったこと、茅場が減少したこと、杉の人工林が増加したことである。これは全国の里山に共通する変化である。一方で現在は利用する必要がなったこと、また世界遺産の景観を維持することなどを考慮して、目標を定めてゾーニングすることが望ましい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は森林植生による世界文化遺産の評価および保全の手法を構築することを目標とし、研究期間内に、①対象とする文化遺産の価値をあらわす植物種と森林の変遷から森林景観を復元し文化遺産の再評価を行う。さらに、②価値となる植生の分布と文化遺産地域の森林管理の現状を把握し問題点を明らかにする。③①と②の結果から森林植生の目標像のタイプ分類とゾーニングを行い、保全管理計画を提案する。2103年度は「白川郷」で①と②の調査を終了し、③に着手した。当初は2012年度に①について「白川郷」と「石見銀山」を平行して調査を実施する計画だったが、2012年度は石見銀山、2013年度は白川郷と、結果的に①と②をまとめてひとつの地域で実施することになった。「白川郷」では文献調査、航空写真などのデータによって、GISに入力しゾーニングに着手することができた。「石見銀山」ではこうした作業が遅れているため。2013年度は森林管理の提言をする前に対象地域のデータを比較可能な状態に揃える必要がある。 また、2013年度の進捗としては、保全管理計画の提案のために、白川村教育委員会文化財担当、農林担当および島根県世界遺産室の担当者と打ち合わせを進めている。調査研究の成果をふまえて、自治体の施策に反映できるような項目と内容を精査する必要がある。白川村では2014年度から、森林の間伐事業を実施することから、併行して調査研究と管理計画の提言を進める。また、島根県でも「石見銀山」の植生管理計画の検討を2014年度から始めることになり、具体的な成果を急ぐ必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度は、管理計画の提案にむけて、まず、対象地域2箇所のゾーニングをする。「白川郷」ではGISの入力は終わっているため、今年度は戦後の森林利用について地域住民にヒアリング調査を実施し、指標となる植物種を特定し、残存状況を確認する。「石見銀山」では、ヒアリング調査は終わったため、航空写真および環境省のデータを用いてGISに入力する必要がある。 上記の調査結果から2014年度は世界文化遺産の森林の管理について「石見銀山」と「白川郷」の方向性を示し、提言する。「白川郷」「石見銀山」ともに、近世以降の森林の変遷をふまえた適切なゾーニング、それぞれの世界遺産の特徴的な価値と結びついた森林利用をどのように再現するのかをあわせて検討する。 「白川郷」は日本に典型的な里山利用がみられたが、その後放置され、現在は年間140万人が訪れる観光地である。放置された里山の樹木が繁茂し、合掌造り家屋に接触し屋根を傷める原因にもなっている。こうした状況をふまえて、戦後に植栽した杉の人工林の間伐、世界遺産の価値を伝える里山の復元、観光地としての風致施業のバランスをとる必要がある。「石見銀山」の中心は史跡指定地で、現在は現状変更を伴う管理が困難である。一方、放置され拡大した竹林の病害なども報告されている。銀山の価値を伝える森林の復元、適切な人工林の管理、繁茂する竹の伐採などを提言する必要がある。史跡における森林管理は各地で模索がはじまったところであり、その点においても有用な結果となる予定である。管理の方法は白川村、大田市(島根県)など自治体に提案する。また、とりまとめた調査結果は日本造園学会に発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初3月に予定していた調査(「白川郷・五箇山の合掌造り集落」3日間×2名)が延期になったこと、消耗品のプリンタトナーの購入(約40,000円)が年度末に間に合わなかったため、約20万円の未使用額が生じた。 2014年度の追加調査のための旅費およびプリンタトナーの購入に充当する。
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