研究課題/領域番号 |
24580277
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
瀬戸 雅文 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (60360020)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 二枚貝 / 行動生態 / 数値モデル |
研究概要 |
人工授精により発生させたウバガイ浮遊幼生を18℃で調温しながら給餌飼育した。ガラスビーズを敷き海水で満たしたガラスセル内部に、成長段階別に浮遊幼生を移して、幼生の螺旋遊泳行動や沈降・着底行動をビデオ撮影した。自動追尾動作解析ソフトを用いて浮上行動に伴う螺旋運動の直径、回転周期、軌道速度、および沈降速度を求めた。行動観察の結果、ウバガイ浮遊幼生は螺旋運動で発生する向心力を利用して個体に作用する螺旋軸に対する個体の体勢を維持しながら、重力を利用して螺旋軸を鉛直方向に形成することによって自由度の高い鉛直移動を実現していることが示唆された。間欠的に発生する遊泳停止によって、底質と衝突した以降も螺旋遊泳行動を継続するものとしてウバガイ浮遊幼生の運動を物理モデル(数値幼生)で評価した。モデル化で必要となる幼生の密度はロスビー式、作用流体力はモリソン式より評価した。さらに、幼生と底質の摩擦係数、反発係数を計測して底質空隙内部における幼生の行動を解析した。 底質内に捕捉後、再浮上する数値幼生の多くは、底質の表面と接触しながら空隙内を直線的に移動後、底質表面と正面衝突を繰り返しながら次第に空隙より離脱した。一方、底質内へ連続的に捕捉される個体は、底質の粒径と同等かその整数倍の回転径で底質表面と側面衝突を繰り返しながら底質内をループ状に移動する傾向が認められた。ウバガイ数値幼生の着底率は着底中期以降に急激に増加し、底質粒径に対する依存性も確認された。着底率は底質粒径0.7~0.8mm程度にピークが形成され、これらの着底特性は実在幼生においても認められた。これより、螺旋捕捉理論に基づいて開発されたウバガイ数値幼生は、任意の成長段階や底質条件下における本種の着底特性を推定するためのツールとして有効性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、全体を3段階のフェーズに区分し、フェーズ間にフィードバック過程を組み込みプロジェクト全体の不確実性を低減しながら実施できるように設計されており、平成24年度はフェーズ1に相当する二枚貝数値幼生の開発を中心に研究を実施した。フェーズ1は、平成24~25年度の2カ年で完結し、平成24年度は、数値幼生を開発するための浮遊幼生の行動観察に基づく物理モデルの構築に主眼が置かれた。 研究協力者を通して北海道白老町地先で採取されたウバガイ母貝より浮遊幼生を大量に生産し、研究費で購入したクールインキュベータ内で安定的に発生から着底まで概ね3週間に亘って浮遊幼生を培養する手順を構築した。底面にガラスビーズを敷き詰めたガラスセル(縦横10mm、高さ35mm、調温機能付き)内で遊泳する浮遊幼生の三次元的な遊泳行動をセル側面、及び上面より同期撮影後、動作解析ソフトで自動追尾する解析システムを構築した。これら一連の過程を経て、二枚貝浮遊幼生の行動を定量化する技術を開発できた。 幼生の密度、殻長、螺旋遊泳の軌道速度、螺旋径、および海水密度、動粘性係数、底面流速をパラメータとして浮遊幼生の運動方程式、および差分式を導出した。砂面と衝突した幼生の運動は、衝突の都度、衝突点を原点とする球座標系に変換後、反発係数と抵抗係数をもとに衝突後の位置を計算し、直交座標系に再変換することによって反映させた。これら一連の過程を経て、浮遊幼生の行動諸元と海水流動および底質の環境諸元を代入すると、経時的な幼生の位置を算出可能な数値幼生(アプリケーション)を開発できた。 直接的に行動を観察することが困難な、底質(砂粒空隙)内における浮遊幼生の行動を、数値幼生を用いて推定し、数値幼生の捕捉率と実在幼生の着定率を比較することにより、本年度の主な研究目的であった数値幼生を開発することができた。
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今後の研究の推進方策 |
フェーズ1の残された課題である着定直後に発生する稚貝の初期減耗過程を移流分散方程式でモデル化することにより、浮遊期および着底期に加えて、着底後の稚貝の波浪・流動に伴う分布密度の変化を反映できるように数値幼生の適用範囲を拡大する。 数値仮想空間内に海底勾配の一様な砂浜域を形成し、海岸侵食対策の面的防護工法で使用される消波施設を配置した上で、波浪・底質条件、海底勾配、および消波施設の種類、設置基数と配置パターンを段階的に変化させながら、当該空間内に数値幼生集団を浮遊させ、消波施設周辺における浮遊幼生の遊泳、着底、着底後の移動状況を再現可能な数値シミュレーションモデルを開発する。数値幼生集団のパッチサイズ、エッジ幅、配置パターンを段階的に変化させながら、それぞれの集団の移動分散過程や着底率を数値解析し、数値幼生が施設由来の循環流の内部に吸い込まれ集積する過程や、集積した数値幼生集団が徐々に浅所へ輸送され打ち上げられる過程を可視化する。数値幼生集団の動態をもとに、無原則的な面的防護工法の導入が幼生ネットワークを分断し個体群の存続性が経年低下するメカニズムや、面的防護工法においても、消波施設の配置条件を工夫して沿岸流を形成すれば幼生ネットワークが再生し、個体群の存続性を維持しながら侵食対策が実施できることを実証する。胆振海岸のウバガイ漁場をモデルケースとして、人工リーフ建設に伴う幼生ネットワーク強度の変化が、稚貝分布や資源変動に与える影響を評価する。さらに、幼生ネットワーク強度をもとに、ウバガイ個体群の存続性を維持することを前提として、海岸侵食対策を継続するための人工リーフの最適配置条件を解明するとともに、沿岸環境の変動性や不確実性に配慮しながら、海岸侵食対策を実施するための海岸保全プロセス(PDCAサイクル)を提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に引き続き、ウバガイ母貝を北海道栽培公社より入手するために、母貝採取・運搬費、国内旅費を支出する。平成24年度に整備された設備備品を用いて水質変動性・底質選択性解析を継続するために、飼育用消耗品、行動実験消耗品、記録メデイア類、人件費・謝金を支出する。稚貝の波浪・流動耐性を解析するために、福井県立大学所有の小型振動流水槽の観測部を改造(アクリル部材を注文して試作)する。更に、稚貝に作用する流体力を直接計測し、数値幼生に反映させるために稚貝の模型を試作する。本模型は、稚貝と相似形状で、分力計で計測できるサイズまで縮尺を10~20倍程度拡大したもので、簡易型3次元プリンタを購入して製作する。本研究の構想段階では、稚貝の流体力についても、浮遊幼生と同様にロスビー式で評価することとしていた。しかしながら、幼生と比べて代表長の大きい稚貝においては、ストークス近似の精度が低下するため、稚貝の流体力係数を直接計測する方法に変更した。これに伴い、新たに簡易型3次元プリンターの整備が必要となるため、平成24年度研究費の一部を保留した上で、平成25年度予算とともに購入経費に当てることとした。 胆振海岸における実海域調査に係り、地元へ研究の概要を説明し協力体制を構築するために国内旅費を支出する。既存の水質計を現地まで輸送し、対象海域へ設置・回収するために経費を支出する。さらに、実海域調査で採取した底質より稚貝個体を識別し行動実験や安定実験に資するために試料分析補助経費(人件費・謝金)を支出する。また、研究成果を学会で発表(国内旅費2件)し、論文に投稿(論文投稿料、論文別刷・消耗品費)するための諸経費(国内旅費、論文投稿料、論文別刷・消耗品費)を支出する。
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