研究課題
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は多くの抗生物質に耐性を獲得した代表的な病院感染起因菌である。VISAは抗MRSA薬であるバンコマイシンのみならず、テイコプラニン、ダプトマイシンに対しても耐性化を示す。本研究では、VISA株Mu50の抗MRSA薬耐性の遺伝的メカニズムの解明を目的とした。前年度までにVISA耐性化に関与する遺伝子変異の網羅的同定に成功し、15の新規耐性遺伝子を含む32の耐性変異を同定した。本年度は、その中のrpoC変異によるバンコマイシン耐性化の機構を明らかにした。まず、このrpoC変異株は、非常に遅い増殖速度を持ち、高いバンコマイシンMICを示すこと、これらの表現型は薬剤存在下では安定に保持されるが、一旦薬剤を取り除いて増殖させるとすぐに消失・低下する性質をもつことが分かった。この性質は最近見出されたslow VISA(sVISA)と命名されたVISAの新しい表現型と一致した。次に、相補性試験および復帰変異株の解析結果から、この株のrpoC変異がsVISAの発現に関与することを明らかにした。さらに、分離した復帰変異株の全ゲノムシークエンスおよび表現型の解析結果から、このrpoC変異によるsVISAの耐性発現にはペプチドグリカン合成経路の遺伝子の他に、relQの遺伝子機能が関与することを見出した。relQは細胞壁のストレス応答に関与する。従ってsVISAの耐性発現には細胞壁合成促進作用の他に、細胞壁のストレス応答の制御機構が関与していることが明らかとなった。
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