研究課題/領域番号 |
24590372
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
井上 純 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (50568326)
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キーワード | 神経芽腫 / 自然退縮 / 細胞死 |
研究概要 |
癌には、無治療でも腫瘍が自然に消退するものがある。この「腫瘍の自然退縮現象」が高頻度に起こる癌として、神経芽腫(Neuroblastoma; NB)が知られているが、その分子メカニズムは全く不明である。最近、申請者らは、LAPTM5遺伝子産物の蓄積により誘導される細胞死(LAPTM5誘導性細胞死)がNBの自然退縮に深く関与することを見いだした。そこで、本研究では、LAPTM5誘導性細胞死の生理的機序を明らかにすることでNBの自然退縮の分子メカニズムの解明を目指す。さらに、そのメカニズムに基づいて、自然退縮できない予後不良なNBに対する、人為的な腫瘍退縮法の確立を試みることを目的としている。 本年度において、LAPTM5の発現は、血清除去等の細胞ストレス環境下で発現上昇することから、このような細胞ストレス環境下で、LAPTM5が重要な働きをしている可能性が示唆された。また、発現アレイ解析により、LAPTM5誘導性細胞死の際、炎症性サイトカイン関連遺伝子等が発現上昇することが明らかになった。LAPTM5誘導性細胞死が起こる際に発現量が変動する遺伝子群を特定した。次年度では、これらの知見をもとにして、さらに詳しく、LAPTM5誘導性細胞死の生理的機序を解明する。そして、そのメカニズムに基づいて、LAPTM5陽性小胞の蓄積を惹起する低分子化合物の同定を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の到達目標として、以下の項目について研究を実施する事を計画した。①LAPTM5は細胞内でどのような生理作用を行っているのかを明らかにする、②LAPTM5陽性小胞の量的制御機構を明らかし、その制御破綻がLAPTM5の蓄積および細胞死の誘導に繋がることを検討する、③LAPTM5誘導性細胞死に特徴的な遺伝子発現パターンを決定し、LAPTM5陽性小胞の蓄積に寄与する遺伝子群を特定する、④上記①~③で明らかにしたLAPTM5誘導性細胞死の生理的機序に基づいて、LAPTM5陽性小胞の蓄積を惹起する低分子化合物を探索する。25年度では、以下の項目についての研究成果を得た。①神経芽腫細胞株におけるLAPTM5の発現は、血清除去による細胞ストレス下で最も顕著に増加することが明らかになった。このことは、LAPTM5は、そのような細胞ストレスに対応する生理作用があることが推測される。②また、血清除去による細胞ストレス下において、リソソーム阻害剤であるBafilomycinA1で処理すると、細胞死の惹起と伴って、LAPTM5のタンパク質レベルが蓄積することが明らかになった。次年度では、このLAPTM5蓄積が細胞死誘導にどのように寄与しているのかを検討する予定である。③最後に、マイクロアレイによる遺伝子発現解析の結果、LAPTM5誘導性細胞死の際に、炎症性サイトカイン関連遺伝子、DNA損傷関連遺伝子が顕著に発現増加することが明らかになった。次年度では、これらの知見をもとにして、さらに詳しく、LAPTM5誘導性細胞死の生理的機序を解明する。このように、本研究の進捗は、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初、計画した本研究期間内の到達目標に変更はなく、引き続き継続的に研究を遂行して行く予定である。26年度では、神経芽腫細胞だけでなく、LAPTM5 KOマウスをから分離した細胞(MEF等)を用いて、LAPTM5誘導性細胞死の生理的機序について、さらに詳細に解析していく予定である。また、GFP-LAPTM5を発現させた細胞を樹立し、In cell analyzerを用いて、その蛍光強度の増加を指標にして、低分子化合物スクリーニングを行い、LAPTM5の蓄積を惹起する化合物の特定を試みる。このように、LAPTM5誘導性細胞死の生理的機序を明らかにすることでNBの自然退縮の分子メカニズムの解明を目指し、そのメカニズムに基づいて、自然退縮できない予後不良なNBに対する、人為的な腫瘍退縮法の確立を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
事務手続き上、次年度4月に支払いが行われるためである。 次年度使用額分は、既に25年度内に執行されている。
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