研究課題/領域番号 |
24590712
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
石井 潤一 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (70222940)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高感度トロポニン / 潜在性心筋障害 / 生活習慣病 / 高血圧 / 糖尿病 / 慢性腎臓病 |
研究実績の概要 |
生活習慣病患者は心血管疾患発生リスクが高いため、心血管リスクを正確に評価して、リスクに応じた診療戦略を確立することが重要である。近年、高感度トロポニン測定により診断された潜在性心筋障害は、一般住民における心血管イベント発生リスクと密接な関係があることが報告されている。本研究の目的は、高血圧、糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣病により外来通院中の患者を登録し、高感度トロポニン測定により潜在性心筋障害の程度を評価し、心血管イベント発生についての3年間の前向き観察研究を行うことである。 本年度の目的は、登録された高血圧、糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣病患者1100例の外来診療を継続しながら、心血管イベント発生についての3年間の前向き観察研究を継続していくことである。さらに、本年度は、心血管イベント発生リスクの高い慢性腎臓病患者におけるサブ解析を行い、潜在性心筋障害と予後との関係を検討することである。 外来通院中の慢性腎臓病患者451例のサブ解析では、高感度トロポニンI測定により診断された潜在性心筋障害の頻度は18%であった。高感度トロポニンI濃度は冠危険因子数、心血管疾患の既往、左室負荷の指標であるN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド濃度、新しい心筋線維化の指標であるガレクチン3濃度、糸球体濾過値の指標であるシスタチンC濃度、糸球体障害の指標であるアルブミン排泄量、新しい尿細管障害の指標であるL型脂肪酸結合蛋濃度や白血球ゼラチナーゼ関連リポカリン濃度と相関関係を認めた。多変量解析の結果では、高感度トロポニンI濃度とN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド濃度が予後の独立した規定因子であった。本年度の研究成績から、潜在性心筋障害と左室負荷は慢性腎臓病患者における心血管合併症の進展や増悪に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外来通院中の生活習慣病患者1100例を本研究に登録できた。登録症例は電子カルテから年齢、性別、冠危険因子、心血管合併症などの患者背景や臨床検査パラメータをデータベースに入力し、通常の外来診療を継続しながら、心血管イベント発生についての前向き観察研究を継続している。 本年度は、心血管イベント発生の多い慢性腎臓病患者におけるサブ解析を行い、潜在性心筋障害と左室負荷が心血管合併症の進展や増悪に関与している可能性を明らかにした。さらに、新しい尿細管障害の指標であるL型脂肪酸結合蛋白濃度や白血球ゼラチナーゼ関連リポカリン濃度は心血管イベント発生に関与していることを解明した。慢性腎臓病におけるサブ解析の結果から1編の英文論文を作成できた。
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今後の研究の推進方策 |
通常の外来診療を継続しながら心血管イベント発生についての3年間の前向き観察研究を継続していく。一次評価項目は心血管イベント(心血管死、急性冠症候群、心不全もしくは脳卒中による入院)、二次評価項目は総死亡である。 本年度は慢性腎臓病患者におけるサブ解析を行ったが、次年度は高血圧患者や糖尿病患者におけるサブ解析を行う。サブ解析の結果を参考にして、最終年度には、多変量解析により、生活習慣病患者の予後と潜在性心筋障害との関係を明らかにする予定である。トロポニン以外のバイオマーカーを測定し、複数のバイマーカーが独立した予後の規定因子になれば、これらを組み合わせたマルチマーカーアプローチの構築を試みる。 2度目の検体採取や測定が可能ならば、高感度トロポニンなどのバイオマーカーの推移と予後との関係を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
潜在性心筋障害の頻度を評価するため、平成24年度と平成25年度に全登録症例(n=1100)において高感度トロポニンI濃度および高感度トロポニンT濃度の測定は終了した。本年度は慢性腎臓病患者を中心に、トロポニン以外のバイオマーカーを測定した。次年度以降は高血圧や糖尿病患者でもトロポニン以外のバイオマーカーを測定しながら、外来観察を継続していく予定である。そのため、研究はおおむね順調に進展しているが、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
高感度トロポニン以外のバイオマーカーの測定費に使用する予定である。研究成果を学会において公表するため、その旅費に研究費を使用する予定である。
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