高血圧、糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣病患者の診療では、心血管リスクを正確に評価し、リスクに応じた治療戦略を確立することが重要である。近年、高感度トロポニン測定により診断された潜在性心筋障害は、一般住民における心血管イベント、特に心不全発症リスクと相関することが示されている。 我々は、高血圧、糖尿病または慢性腎臓病により外来通院中の生活習慣病患者1012例を登録し、高感度トロポニンT濃度の測定により潜在性心筋障害の程度を評価し、前向きに心不全発症リスクとの関係を検討した。高感度トロポニンT測定により診断された潜在性心筋障害の頻度は29.8%であった。高感度トロポニンT濃度は高感度トロポニンI、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド、推定糸球体濾過量、尿中L型脂肪酸結合蛋白、白血球ゼラチナーゼ関連リポカリン濃度と中等度の相関関係を認めた。平均942日の観察期間中に心不全発症は44例であった。Cox比例ハザード多変量解析の結果では、高感度トロポニンTとN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド濃度は心不全発症の独立した予測因子であった。高感度トロポニンTとN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチドの中央値により4群に分類すると、両者ともに高値群の心不全発症率は両者ともに低値群に比べて有意に高かった。 これらの結果から、高血圧、糖尿病または慢性腎臓病により外来通院中の生活習慣病患者では、高感度トロポニンT測定により診断された潜在性心筋障害は約30%に存在し、潜在性心筋障害の程度は心不全発症リスクと相関すると考えられた。さらに、高感度トロポニンTとN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド濃度の同時測定は心不全発症リスクの層別化に有用であると考えられた。
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