研究課題
Protein kinase RNA-dependent (PKR)は肝細胞癌において最も頻度の高い原因であるC型肝炎ウイルス(HCV)感染によって増加し、HCV増殖を阻害する細胞内蛋白である。またインターフェロン (IFN)により誘導され、IFNの抗HCV作用を有する細胞内分子である。一方、PKRはC型肝炎患者の肝細胞癌組織において非癌部組織に比べて高発現している。肝細胞癌で高発現するPKRの役割と宿主細胞機能修飾について解析した。Huh7.5.1細胞を用いてHCV感染肝細胞癌株としてJFH1, H77sを作成した。同細胞株にPKR siRNA、およびPKR発現プラスミドを用いてPKRの発現を増減させ、それにともない細胞内で変化する遺伝子をPCRアレイ、リアルタイムRT-PCR、ウエスタンブロット法で同定した。細胞増殖への影響に注目しスクラッチアッセイ、MTSアッセイを行った。PKRの発現の増減によりMAPK関連遺伝子であるc-Fos, c-Junの発現、リン酸化が連動して増減した。またPKRはc-Fos, c-Jun 各々の上流にあるErk1/2およびJNKのリン酸化を誘導しMAPK pathwayを増強した。スクラッチアッセイ、MTSアッセイの結果、PKRによる細胞増殖亢進作用が確認された。また、MAPK pathwayの阻害薬を用いた検討において、PKRの細胞増殖亢進作用はErk1/2→c-Fos, JNK→c-Junの両経路ともに依存していることが明らかになった。HCVに関連する肝細胞癌において、PKRは肝癌の細胞増殖能を亢進させ、癌の進展に寄与している可能性があり、その作用はc-Fos, c-Junの両経路の活性化に依存していた。C型肝細胞癌において過剰発現するPKRは、肝細胞癌においては治療標的となり得る可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本年はPKRの肝細胞癌における役割についてin vitroのアッセイ系を中心に実験が進み、PKRはC型肝炎ウイルスの複製を阻止する作用を持つにもかかわらず、肝細胞癌で過剰発現した際には、MAPK pathwayの活性化を介して細胞増殖を促し、病態を増悪させる可能性が示唆された。ヒト肝細胞癌組織を採取し得た34例 (HCV陽性17例、陰性17例)においても、PKRと同定した分子との関連をRT-PCR、ウエスタンブロット法で追加検討し、PKRの発現量はリン酸化c-Fos,リン酸化c-Junの発現増加と関連していたことを証明した。これらの追加データーも加えて論文を作成し、PLoS Oneに投稿してアクセプトされ、掲載された。計画以上の進展といえる。
今後の研究の展開について以下の検討を予定している。1. PKR発現変化による宿主肝癌細胞のDNAメチル化、蛋白リン酸化への影響PKRが影響を与える細胞内遺伝子としてMAPKを同定したが、その下流のAP-1遺伝子群はDnmt1を介してDNAメチル化に寄与することが知られている。PKR発現の増減により修飾される細胞内遺伝子に対するDNAメチル化の関与について、抽出したDNAよりメチル化DNAを精製し、Bisulfite反応処理後real-time PCRで解析する。PKRによる宿主肝癌細胞へのエピジェネティックな影響について解析し、癌細胞への生理的影響を評価する。また、PKRはリン酸化蛋白であり、そのリン酸化修飾による肝細胞癌への影響について、2D-WesternおよびEttan DIGEシステムを用いて網羅的かつ経時的に比較解析する。2. 肝癌とPKR、インターフェロンとの相互作用インターフェロン(IFN)には肝細胞癌においても抗癌作用があると考えられている。しかしながらIFNによる抗癌作用のメカニズムは未だによくわかっていない。IFNはPKRをはじめ2’5’-OAS, MxA, IL-8など様々なインターフェロン誘導遺伝子(ISG)を誘導する。これらのISGとPKRによる発癌ポテンシャルについて、その相互作用を明らかにする。PKR高発現の肝細胞癌においてIFNを添加し、MAPK pathwayへの影響をみる。PKR以外のISGである、2’5’-OAS, MxA, IL-8などの変化と抗癌効果、それらの遺伝子とPKRとの相互作用についても検討する。PKRとHCV発癌およびIFNによる抗癌作用の相互機序を明確にすることは、肝硬変・肝細胞癌患者に対するIFN治療の是非につながる一つのエビデンスになると考えられる。
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