研究課題/領域番号 |
24591189
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
和田 健彦 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90447409)
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研究分担者 |
大瀬 貴元 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10568447)
稲城 玲子 東京大学, 医学部附属病院, 研究員 (50232509)
南学 正臣 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90311620)
田中 哲洋 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (90508079)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 糸球体足細胞 / オートファジー / 小胞体ストレス |
研究概要 |
平成24年度は糖尿病関連の代謝性ストレスに対する糸球体足細胞の応答について検討を行った。細胞生物学的に詳細に検討するために研究代表者が分離・樹立したマウス温度感受性培養糸球体足細胞を用いている。 I. 糖尿病関連の代謝性ストレスに対する糸球体足細胞の応答:糖尿病性腎症に関連するストレスとして、過酸化水素を用いた酸化ストレスの負荷・高グルコース負荷・低酸素負荷をそれぞれ行った。酸化ストレス刺激に関しては、小胞体ストレス応答(分子シャペロン蛋白の発現誘導と小胞体ストレス誘導性細胞死誘導因子であるCHOPの発現誘導)と細胞骨格の変化が観察されており、この確認を行っている。高グルコース負荷に対しては足細胞は抵抗性を示し、明らかな細胞応答の変化を検出することは出来ていない。細胞外からの高グルコース単独の刺激のみでは足細胞の変化をもたらすには不十分な可能性がある。低酸素負荷については強度の刺激に反応してCHOPの発現誘導が認められ、その後の細胞死に至る経路に影響を与えていると考えられている。現在、CHOP以下の分子応答について詳細な検討を試みている。 II. オートファジー制御に起因する細胞応答の変化:上記各代謝性ストレスに対するオートファジー誘導について検討を試みた。LC3に対するウエスタンブロット法・LC3に対する細胞免疫染色を試みているが、現時点で抗体と実験条件の最適化に時間を要しており、確実な結果を得るに至っていない。現在、更なる実験条件の検討を行っている。 III. エネルギー関連分子と恒常性維持機構の相互作用の解析:研究計画書で平成25年度の計画として記載したエネルギー関連分子(AMPK/SIRT1)の足細胞における役割について予定を早めて検討を始めている。当研究室で確立した足細胞特異的遺伝子改変マウスにおける生化学的変化・病理組織学的変化について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、糖尿病関連の各種代謝性ストレスについての検討は相当部分まで進んでおり、詳細な実験条件の確立とそれに対する細胞応答の変化をマクロ的に確認することが出来た。細胞死や細胞骨格には変化が認められており、これらの現象をもたらす分子生物学的機序の解明を試みているところである。一方、足細胞に対する代謝性ストレスに対してオートファジーが保護的に作用しているという仮説を立てて検討を行っているが、上記記載のとおり、現時点では予定よりもやや遅延している。一方で、エネルギー関連分子AMPK/SIRT1の検討については、遺伝子改変マウスが当研究室で確立し解析が進んでいる。このマウスではある疾患モデルにおいて疾患感受性が明らかに亢進しているという結果を得ており、足細胞傷害・糸球体硬化の進行におけるエネルギー関連分子の保護的役割が強く示唆されている。現時点では、研究計画書の初年度に記載した糖尿病性腎症モデル動物よりも優先してこの遺伝子改変モデルの疾患感受性について検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
様々な代謝性ストレスに対する糸球体足細胞の細胞応答の一部が明らかになってきたことから、これの全貌を解明する目的で、培養細胞を用いた細胞生物学的検討を継続する。現時点で飽和脂肪酸負荷は検討が十分ではないため、これについても次年度以降検討を進める予定である。また細胞死・細胞骨格の変化には足細胞がいわゆる脱分化を起こしていることを示唆する所見であり、細胞周期制御の変化が関連している可能性があるため、これについても予定通り検討を行う。一方で、代謝性ストレスに対する足細胞の(主として保護的)細胞応答については、オートファジーが果たす役割が重要である可能性が高く、オートファジーの評価と共にオートファジー制御による細胞応答の変化についても検討を進めたい。 また、AMPKやSIRT1といった細胞内エネルギー調節関連分子が代謝性ストレスに対して保護的に働いている可能性があり、これらの分子を特異的な阻害剤やsiRNAなどを用いて抑制することによる細胞応答の変化を検討する予定である。現在当研究室で確立した足細胞特異的遺伝子改変マウスを用いてその自然経過と疾患に対する感受性について生化学的・病理組織学的に検討を始めており、今後もより詳細な検討を継続する予定である。また、この遺伝子改変マウスの検討を優先しているためまだ開始していない糖尿病性腎症モデル動物の確立とそれを用いたオートファジー・エネルギー関連分子を中心とした検討についても順次開始し進行させる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は上記代謝ストレスに対する細胞応答についての検討を継続し、オートファジーの実験条件についても更なる検討を加える。これらに加えてAMPK/SIRT1の発現・機能解析などでin vitroの実験を多く行う予定である。このため、培養液や培養用血清を中心とした細胞培養関連の実験試薬・消耗品の購入に研究費を使用する。また、細胞染色やウェスタンブロッティング、定量的PCR等を用いて検討するため、これらに関連した実験試薬・消耗品の購入にも研究費が必要である。また、足細胞特異的遺伝子改変マウスを用いた検討も継続し、かつ糖尿病モデル動物を作製する予定であるため、これらの維持・飼育費や生化学的パラメータ測定試薬・組織免疫染色用試薬購入等に研究費を使用する予定である。また、得られた結果を発表し議論を行う目的で米国腎臓学会に出席予定であり、その旅費としても一部使用予定である。
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