慢性腎臓病(CKD)患者の予後は心血管病(CVD)の合併と密接に関連する。CKD患者におけるCVD発症機序の探究はCKD患者の予後向上に直結する検討事項である。本研究課題の目的は腎不全環境で高度に認められる過形成性血管内膜肥厚や血管石灰化病変の発症・進展機序における細胞接着斑蛋白質hydrogen peroxide-inducible clone 5(HIC-5)の役割について検討することであった。 平成24-25年度にかけて血液透析患者,糖尿病患者,および腎機能正常患者から得られた剖検病理標本から頸動脈、大動脈壁を採取し、HIC-5の局在を検討した。その結果、腎機能正常患者に比べて糖尿病および透析患者ではHIC-5は血管平滑筋細胞に偏在する形で発現し、また、血管内膜肥厚部でHIC-5の発現が亢進していることを確認した。 これらの結果を踏まえ、平成26年度時はHIC-5の血管平滑筋細胞(VSMC)および血管内皮細胞(EC)での発現を検討した。マウスVSMCを用いた培養では、高リン負荷後にオステオカルシンの発現増強に遅れてRUNXとともにHIC-5の発現が亢進し、骨芽細胞様細胞への形質転換への関連が考えられた。現在、RUNXとHIC-5のsiRNAを用いたリン負荷実験を施行中である。ECでの検討では、HIC-5はECに発現してECのmicrovilli-structure形成に関与すること、接着因子の作用下での単球のECへ接着にHIC-5が関与することが明らかとなった。また、HIC-5とApoE、HIC-5とLDL受容体ダブルノックアウトマウスを用い、動脈硬化におけるHIC-5の作用を検討した。その結果、HIC-5とApoEあるいはHIC-5とLDL受容体ダブルノックアウトマウスでは、ApoEあるいはLDL受容体単独のノックアウトマウスに比べて動脈硬化病変が有意に減少(病巣が60%減少)しており、HIC-5が血管内膜病変形成に関係することが明らかとなった。
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