研究課題
我々はこれまでCD44+細胞が間葉系の細胞特性を有し、肝細胞癌(HCC)の発育進展に重要であることを報告したが、CD44が血中癌細胞(CTC)の特性維持に重要であるかをin vitroの実験で確認した。血管内で上皮細胞は物理的細胞ストレスにより、anoikisを来たし細胞死へと誘導されるが、一部の癌細胞はこれを回避し、血液中を循環し続ける。そこで、我々は複数のHCC細胞株を用いて、CD44+細胞を分離し、非接着性のdishを準備し、非接着環境下にて細胞接着非依存性細胞生存能をアポトーシスアッセイにて確認した。CD44+細胞は非接着環境下にて、CD44-細胞と比較すると有意にアポトーシス耐性を有し、生存する細胞数も多かった。また、同様の実験で、細胞のstem cellの特性を確認する手法でsphere formation assayを行い、CD44+細胞がCD44-細胞と比較してsphere形成能が非常に高いことを見いだした。これらの特性は、間葉系の特性を制御するTwist1によって制御されており、ヒトHCC原発腫瘍においてもCD44、Vimentin、Twist1の発現のco-localizationが確認された(Okabe et al. Br J Cancer 2013)。並行して、血中の癌細胞の遺伝子を確認するための予備実験として、ダイレクトシークエンス法の感受性を調べるために、細胞株を用いて基礎実験を行った。βCateninのpoint mutationを有するSNU398細胞株を用いて、ヒトhealthy volunteerから採取した血液1mlにこの細胞を100個、1000個、10000個混入し、カラムを用いた分離でPBMCの除去を行った。FACSと比較すると、細胞障害が少ないことと、簡便であることから、カラム分離に取り組んだ。結果、細胞100個を混入した血液サンプルより分離したCTC DNAの1/20のサンプルをシークエンス解析に用いて、mutationを検出することが可能性あり、ヒトCTCの遺伝子変異解析にこの方法が十分有用であることが確認できた。この結果は複数の遺伝子解析が可能であることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
組織・血液からの分離のプロトコールを簡便化するため、血中癌細胞についてはカラムを用いた分離に取り組み、これを完成させた。組織に関してはdebri除去や、肝細胞のviabilityの向上など課題はのこされているものの、マウスを用いた基礎実験で、肝臓組織消化プロトコールの最適化に現在取り組んでいる。
研究計画に沿って、現在すすめている実験として、組織からの細胞分離プロトコールの最適化、sortして得られた癌細胞の蛋白解析のための細胞ブロック固定もしくは、サイトスピン固定、免疫染色の条件探し等にとりくんでいる。得られたDNA解析に関して、p53やAxin1等を含めた様々なprimerおよびシークエンス解析のプロトコールの確立にも時間を要している。現在存在する重要な課題としては、FACS sort時のpick up markerの選択で、すべての症例に共通する細胞表面マーカー(今研究で用いているのはいくつかのこれまで報告される癌幹細胞マーカー)は存在せず、いかに複数の癌幹細胞マーカーを有効に用いるかのstrategyを確立する必要がある。症例の蓄積はこれらの条件やプロトコールが整ってから行う予定である。
当初想定していたより安価にて購入ができたため。発表を予定していた国際学会出張旅費を別の予算にて支出することができたため。組織からの細胞分離プロトコールの最適化、sortして得られた癌細胞の蛋白解析のための細胞ブロック固定もしくは、サイトスピン固定、免疫染色の条件探しを行ううえで、今年度以上に試薬消耗品の使用が予測される。また、実験を進めるうえで、研究結果のとりまとめ、関係書類の作成を行っていただく補佐員が必要であるため、その人件費にしようしたいと考える。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (1件)
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