本研究の目的は、乳がんに伴う乳房切除手術後に行う乳房再建手術において、視覚的に最適と認識される手術デザインを提唱することにある。このためには、乳房のすべての形態パターンごとに考えられる手術デザインを提示し、それぞれの方法に対する審美的評価を行う必要がある。本研究において、3次元コンピュータ・グラフィックス(CG)を用いることにより、あらゆる乳房の形態パターンや手術デザインに対応する手術痕を提示することができた。それぞれのパターンについて審美上の点数評価を行い、手術デザインのためのガイドラインを構築した。3 次元CG モデル化された乳房における評価が、現実の乳房の外観における評価を正確に反映するのか否かは不明である。そこで3次元CGモデルにおける評価がはたして現実の乳房における評価を反映するか否かを、連携研究者である慶應義塾大学医学部形成外科学教室(現:香川大学医学部形成外科教室)の永竿智久氏ら形成外科医と密接に連携して検証した。本研究では、患者の乳房をレーザースキャナで計測し、3次元形状点群データを得た。レーザースキャナによる計測では欠損域が生じるため、CT画像からの3次元形状も併用して人体3次元CGモデルを作成した。人体の3次元形状のデータ量は膨大かつ複雑なため、一般的な3次元CGソフトウェアで扱うことは困難である。2012年5月のアルバータ大学医学部出張による調査の結果、「FreeFormPlus」の利用が断然適していることが判明した。「FreeFormPlus」では、3次元形状変形処理に加えて、移植皮膚パッチや手術痕を効率的に描画することも可能であることが判明した。本研究を進めるにあたり、人体の3次元形状のデータの軽量化手法の確立やウェラブル端末利用手法の確立、乳房再建手術症例以外への応用、解剖学図譜作成への応用など、当初の計画以上の派生的な成果も得ることができた。
|