研究課題/領域番号 |
24650083
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長井 志江 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (30571632)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 情動 / 発達 / 共感覚 / マルチモーダル / 人-ロボットインタラクション |
研究概要 |
平成24年度は,(1)人の発話(聴覚刺激)からポジティブ/ネガティブ情動を抽出するモデルの開発と,(2)人に見られる触覚の情動知覚優位性に基づいて,複数の感覚情報から基本6情動を段階的に獲得するモデルの開発を行った. (1)では,リカレントニューラルネットワークを用いて,ロボットに対する人の教示発話から,ポジティブ/ネガティブ信号を抽出するモデルを開発した.人の発話の韻律情報(抑揚や強度,長さなど)には,発話者の情動状態が反映されることが指摘されている.そこで本研究では,これらの特徴量の時系列データをリカレントニューラルネットワークの 入力として,その発話のポジティブ/ネガティブの度合いを出力するモデルを構築した.人とロボットのインタラクション実験の結果,人の発話内容が限定されていなかったり,日本語とドイツ語というように言語が異なる場合でも,韻律という不変的な特徴によって発話者の情動が検出できることが確認された. (2)では,神経科学的な知見に基づき,インタラクション中に共起する複数の感覚情報から,喜び/驚き/怒り/悲しみ/恐怖/嫌悪の基本6情動を段階的に獲得するモデルを開発した.人の触覚には,刺激の快/不快を直接的に知覚することのできる繊維が生得的に備わっており,それが情動の知覚・発達において重要な役割を担うことが指摘されている.そこで本研究では,人の柔らかい皮膚を模した触覚センサを開発し,触覚とそれに共起する視覚,聴覚情報から,階層的に構成した確率的ニューラルネットワークを用いて,6情動を自己組織的に獲得するモデルを構築した.実験の結果,人の乳幼児期に見られる情動の分化発達と同様の過程を経て,ロボットが6情動を獲得することが確認された.以上の結果は,共感覚というマルチモーダルな情報から,低次特徴に基づいていかにして情動を抽出・形成するかという課題に重要な示唆を与えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では,平成24年度は個々の感覚情報を個別に解析し,モダリティごとに情動を抽出することのできるモデルの開発を予定していたが,実際は,モダリティごとの解析と複数のモダリティを統合したモデルの開発とを並行して行うこととなった. モダリティごとの解析では,聴覚刺激に注目し,発話の低次特徴のみから情動に不変的な特徴を自動で抽出し,発話者のポジティブ/ネガティブ情報を判別することのできるモデルを開発した.ここでの結果は,どのような特徴が共感覚的な情報として有効であるかを検討する上で,重要な示唆を与えている.当初の予定とは異なり,様々な感覚刺激でその特徴の有効性を検証するには至らなかったが,他のモダリティにも応用しうる低次特徴を検証できたことは,共感覚的な情動抽出モデルの開発に向けて重要な一歩といえる. これと並行して行った,複数のモダリティを利用した情動の分化獲得モデルの開発では,モダリティごとに利用した特徴は異なるものの,いずれも低次特徴を用いて情動状態を形成することに成功した.神経科学的・生理学的な知見に基づき,情動の知覚優位性をもった触覚センサを開発し,インタラクション実験を通して,人の乳幼児と同様の過程を経て情動が発達的に分化することを示した.本実験で得られた結果は,共感覚的な情動の発生・発達原理の解明に向けて,重要な一歩と言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,前年度の成果を統合し,複数の感覚情報から共通の低次特徴を用いて情動を抽出・形成することのできるモデルを開発する.前年度までに,聴覚刺激から共感覚的特徴といえる韻律情報を自動で抽出し,情動を識別することのできるニューラルネットワークモデルを構築した.また,複数の感覚情報を統合することで,基本6情動を自己組織的に獲得するニューラルネットワークモデルも開発した.しかし,ここで利用した特徴はモダリティに固有のものであり,非共感覚的な特徴となっている.また,モデル化に使用したニューラルネットワークは,時系列データの処理が得意なものや,空間的な特徴抽出に優れたものなど,各実験に特化したものとなっている.そこで今後は,使用する特徴量とそれを処理するニューラルネットワークに一貫性を持たせ,神経科学的・生理学的により妥当なモデルの開発を目指す. また,提案するモデルを視覚や聴覚,触覚を備えたヒューマノイドロボットに実装し,より自然なインタラクションの中でモデルの検証実験を行う.親子のインタラクションを想定した人とロボットのインタラクションを通して,ロボットがどのように情動を分化発達させ,また人の情動を検出することができるかを検証する.そのためには,触覚センサの改良も行い,より多様なインタラクション実験を可能にする.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は,主に触覚センサの開発と被験者実験の謝金に充てる.まず,平成24年度に開発した触覚センサを改良し,より多様でかつロバストなインタラクション実験を行えるようにする.そして,その触覚センサを実装したロボットを用いて,被験者とのインタラクション実験を行う.学内外から被験者を募集し,様々なインタラクションを通して,情動がどのように発生・分化するかを検証する. また,研究成果を発表するため,学会への旅費や論文の校閲費として研究費を使用する.研究成果をまとめ,対外的にその成果を発表することで社会に貢献する.
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