平成25年度は,(1) 情動の分化発達モデルの精緻化と,(2) 他者の情動推定手法の提案,そして,(3) 柔軟な触覚センサの開発を行った. (1) では,昨年度の成果として挙げた,情動の分化発達モデルをさらに精緻化することで,情動分化が促進されることを確認した.昨年度までのモデルでは,確率的ニューラルネットワークを用いて複数の感覚情報をボトムアップに抽象化することで,情動状態を形成していたが,これにトップダウンのバイアスをかけることで,低次感覚情報からより情動に特化した特徴量を抽出できるようにした.実験の結果,トップダウンの処理により情動分化が促進されることを確認した. (2) では,他者の情動推定手法として,脈拍や皮膚コンダクタンスなどの生理指標データと,表情や発話などの行動データを統合し,ベイズモデルの状態数として情動を推定する手法を提案した.情動は様々なモダリティを通して表出されるが,それが内部状態である情動とどのように対応しているのかは明らかではない.本研究では,sticky hierarchical Dirichlet process hidden Markov model を拡張することで,複数モダリティ情報から時系列的な変化を考慮しつつ,情動を自動推定することのできるモデルを提案し,その有効性を確認した. (3) では,上記のモデルを人とロボットのインタラクション実験で評価するため,ロボットに実装可能な柔軟な触覚センサを開発した.耐久性が高く,ロボットの形状に合わせて自由に変形可能な素材として,磁性エラストマーを利用することで,触覚インタラクションに耐えうる磁気式触覚センサを開発した. 以上の成果は,情動に関する問題を様々な側面から扱ったものであり,これらをまとめることで,「共感覚を利用したマルチモーダルな情動抽出」という本研究課題を遂行したと言える.
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