研究課題
妊娠18・19日目の母体ラットの腹腔にLPSを65マイクログラム/kg投与した後、新生仔を生後3日齢で実験に供し、脳組織切片を作製した。造血器型プロスタグランジンD合成酵素の発現が上昇した活性化ミクログリア、膜結合型プロスタグランジンE合成酵素の発現が上昇した肥大アストロサイトなどが検出され、新生仔脳組織が炎症性環境に応答している様子が観察された。次いで、新鮮脳組織からmRNAを抽出し、TREM1 (免疫グロブリンスーパーファミリー)の発現が上昇したことからも、ミクログリアの活性化を確認した。そこで、母体炎症が胎児脳へ伝播する際、どの細胞の如何なる分子情報伝達を介するどの経路を通る動態が関与するのかを探る必要があると考え、免疫系細胞が脳実質細胞と相互作用する場を同定する実験を進めた。GFP遺伝子導入B6マウスをドナーとし、通常成体B6をレシピエントとした同系骨髄キメラを解析した結果、骨髄由来細胞は移植2週間後よりレシピエントの髄膜・脈絡叢間質・血管周囲腔に分布すること、移植後4~8ヵ月の経過で、脳実質の脈絡叢付着部近傍の複数の離散的な小領域に限定して進入すること、進入した骨髄由来細胞は多数の突起を有し、Iba-1陽性のミエロイド系に分化することがわかった。脈絡叢付着部は脳室上衣と髄膜に挟まれた狭い空間で、アストロサイトの線維性突起から成り、このアストロサイト突起はケモカインであるフラクタルカインを発現した。脈絡叢間質にはミエロイド系細胞のみならず、ケモカインであるCXCL12を発現する細胞も存在し、ともに骨髄由来であった。脈絡叢とそれが付着する脳領域からはフラクタルカインとCXCL12に加え、関連分子であるCX3CR1(フラクタルカイン受容体)、ADAM10(フラクタルカイン切断プロテアーゼ)、CXCR4(CXCL12受容体)のmRNAが検出された。
2: おおむね順調に進展している
まず、本計画の中心的実験モデルとなる新生仔ラットにおいて、母体に惹起した全身性の炎症環境が、実際に胎児脳に伝播し、新生仔脳組織が応答している様子を確認することができたので、モデル性は検証できたと考える。次に、ラット骨髄よりマクロファージを採取して、M1マクロファージ、M2マクロファージをそれぞれ誘導する計画であったが、本年度は、その前段階として、同系骨髄キメラマウスの解析を進め、そもそも免疫系細胞が脳実質細胞と相互作用する場があるのか否かを解明する実験を優先した。骨髄キメラ実験は、平成23年度に終了した基盤研究Cの課題で既に軌道に乗っていた実験であり、本年度はそれを完了して、Brain Behav Immunに論文を出版することが出来たという意味で有意義であったと判断する。この成果によって、胎児脳組織へ炎症が伝播する経路として、脈絡叢付着部が有力候補にあがった。加えて、骨髄由来ミエロイド系細胞が炎症の伝播に関与する可能性、さらに、その際のサイトカイン候補としてフラクタルカインが第一にあげられることがわかってきた。
成体マウスにおいて骨髄由来ミエロイド系細胞が髄膜・脈絡叢間質を主体に分布することが明らかとなったことから、胎生期マウスにおいてもミエロイド系細胞が髄膜・脈絡叢間質を主体に分布するのか否かを明らかにしたい。分布することがわかった場合、妊娠マウスの母体腹腔にLPSを投与して、胎児の髄膜・脈絡叢間質に展開するミエロイド系細胞にどのような変化が生じるのかを、形態およびサイトカイン発現の観点から明らかにしたい。これらの実験結果は、本計画の基盤的データとして重要なものになる。その後、ラット骨髄からのM1マクロファージ、M2マクロファージの誘導、および髄膜空間への注入技術の開発、さらに、髄膜・脈絡叢を摘出してのFACSもしくはサイトカイン測定へと計画を進めていきたい。
研究計画調書に申請した設備備品は研究費総額を考慮すると現実的ではなくなっている。そこで、消耗品費、旅費、人件費・謝金、その他の項目にて、以下のように使用する計画にしている。ラット・マウス購入費¥200,000、骨髄細胞培養試薬¥300,000、刺激用サイトカイン¥220,000、フローサイトメトリー用試薬¥300,000、qRT-PCR用試薬¥280,000、国内旅費¥140,000実験補助¥180,000その他(文房具類など)¥15,911
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
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