本研究課題遂行により、日本では―イギリス文化圏でさえ―「忘れられたロイヤル・アカデミシャン」であったジェイムズ・バリーについて、その生涯と作品モチーフの一端が明らかとなった。特にこの画家が、18世紀アイルランド南部都市コークに生まれたカトリックであり、同郷の「崇高の美学者」エドマンド・バークに見初められ、彼の財政的支援のもと、ロンドンそしてフランス・イタリアでの画家修業へといたった経緯は詳細に解明をみた。作品に即して言えば、「抑圧されたアイルランド」を描くその精神は、バーク美学の「崇高」とも呼応する。他方で、彼の描く歴史的人物は、解剖学的知見に裏打ちされた大陸での古代彫像研究の賜物であった。
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