研究課題/領域番号 |
24652176
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研究機関 | 京都造形芸術大学 |
研究代表者 |
伊達 仁美 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (00150871)
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キーワード | 剣鉾 / 祭礼用具 / 真鍮 / 京都の祭礼 / 真鍮の配合比 / 錺職人 |
研究概要 |
昨年度は蛍光X線分析装置を用いて金属の配合比を分析し、箱書きや一部の剣に刻印として残っている情報と組み合わせ、時代性や地域性、鉾の差し方等の祭礼形態との関係の一部を明らかにした。本年度は剣のしなり構造に着目し、実際の剣鋒と同様の剣を試料として作製し、各部位の強度試験を行った。職人が伝統的な方法で行う「たたき」と「なまし」の繰り返しによって、真鍮板の厚みと弾性が変化し、鉾差しの要求する剣のしなりが表現されると考えられるためである。本実験は、剣を撓らせながら前進する東山系の剣先を想定し、その撓りの構造を解析することを目的に行った。実験試料は、職人の口伝による「四分六」と呼ばれる亜鉛と銅が4対6の割合で含まれる真鍮板を加工し、実際の剣の剣先と平均的な寸法である幅90mm・厚さ0.6~4.8mm・長さ1200㎜で剣先の形状が方形のものを錺職人に依頼して製作し、これを長尺方向に垂直に幅10㎜に切断、整形した短冊状の試料107個を得た。 これらの試料の厚みなど寸法を測定した後、「JIS Z 2248 金属材料曲げ試験方法」を参考にして、(株)島津製作所製オートグラフAGS-Hに金属用3点曲げ試験治具を装着し、2個の支え間の距離20mm、押し曲げ速度毎分20mmで曲げ角度170度まで曲げ試験を行った。 その結果、試料は板厚が厚くなるほど曲げ強度が大きくなり、板厚の大きい一部の試料では測定限界の500Nを超えた。また、剣の板厚は茎から剣先に近づくにしたがって微妙に増減を繰り返しながら小さくなり、試料強度もまた板厚にほぼ比例するように小さくなった。この測定結果から、たたきとなましを繰り返すことにより、たわみを調整しながら撓りやすい剣先が製作されることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
剣鉾の祭礼は狭い町組のなかで継承されてきたものであり、その全体像を明らかにする調査の必要性が指摘されてきた。昨年度までの実績として、歴史学的、民俗学的な観点から調査研究がなされて来た。それとともに本研究の目的である制作技法の調査を行い、職人の経験と口伝によるものに対し、剣先の外見的な調査から、これらの差し方や祭礼での用いられ方の違いが、材質や延展方法に関係があることがわかった。現在まで長さや厚みの計測ならびに祭礼の形態や文字情報の調査は300本余りの剣に対して終了している。蛍光X 線照射装置を用いて剣の材質および金属配合比の測定を行った点数は、60本近く行った。今後サンプル数を増加することで剣の用いられ方の詳細な変遷が明らかになることが考えられる。多くは職人の口伝通り、「四分六」に近い数値であるが、時代や地域、職人によって微妙な差異があることを分析することが今後の課題である。それを解決すべく、今年度は、実際の剣先を作成し、その強度試験や曲げ試験を行い、たたきとなましの関係を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、剣の金属配合比の測定を行い、調査点数を増やす。それにより比較できるデータ量の増加、蓄積を行う。強度試験や曲げ試験の精度を上げ、たたきとなましの関係を明らかにする。また、計測調査を行ったものから剣自体に年号や錺職人の銘が刻印された剣を抽出したが、それを中心に金属配合比を測定する。また、剣自体に刻印されたもの以外に箱書きや文書、民俗調査から得た情報を含めるなど範囲を広げて調査を行う。 今年度の成果を第35回文化財保存修復学会大会(於:明治大学)で連携研究者や研究協力者とともに「「剣鉾」の剣にみるしなり方の構造」という題目で発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験試料である剣鉾の製作を複数本考えていたが、まず、試験的に1本を作成した。また、強度試験や曲げ試験に既存の想定機器であるオートグラフを用いることにしたが、金属用の治具を新たに製作することが必要となり、その支払いが次年度になったため。 すでに支払準備ができており、計画的に使用できる見通しである。
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